マレーシアの経済活動再開に映る強烈な危機感 コロナ感染抑制が奏功した一方、不安も募るが

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一方で、「解除」や「緩和」の判断に漕ぎ着けても、反対の声や批判は待ち受ける。

2週間以上にわたって2ケタに抑え込まれていた1日当たりの新規感染者数が、ムヒディン首相が「緩和」を表明したその翌日以降、再び3桁に戻ったことも(5月2日105人、3日122人)、国民の不安感を増す要因となった。海外からの帰国者の感染が多く確認されたことも増加原因の一つではあったが、突然の「緩和」宣言に戸惑う国民の不安を高めることとなった。SNS上などでも「なぜ今“緩和”するのか、まだ感染拡大が封じ込められたとは言い切れないなかでの“緩和”は早すぎる」「私は“緩和”されても、安心できるまで当面stay homeを守ります」などの反対意見が目立つ。

6つの州が「緩和」措置の導入を見送りへ

ちなみに、3ケタを超えたのは2日間のみで、4日以降は再び感染者数は55人(4日)、30人(5日)と減少傾向を示している。とはいえ、すでにサラワク州やサバ州など6つの州が「緩和」措置の導入を見送る方針を示しているほか、条件付きでの導入を表明する州も出てくるなど、各州で対応にばらつきが出てきて、州を跨ぐサプライチェーンなどを含め企業活動にも影響が及ぶことが予想される。「緩和」宣言により開業が許可された飲食店なども、自主的にテイクアウトのみに自粛する方針を示す店舗も少なくない。

感染抑制と経済維持とのバランスをいかに保ちながら、国民の理解と協力を得て「解除」のタイミングを計るか。それぞれの国家が今、厳しい選択を迫られている。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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