新鎌ヶ谷駅は千葉県民の「森林愛」に満ちている 駅舎リニューアル時に地元の山武杉を活用
そこから話はふくらんでいく。近隣の住民たちが便利に使ってくれれば嬉しい。北総鉄道を利用してくれるお客さんだけでなく、他の路線を使うお客さんたちにも憩いの場となってほしい。乗り換えるときにひと休みできる場所にしたい。ニューファミリーが多い路線だから、子供たちが安心して使える待ち合わせの場所になってくれれば……。
社内の要望を総合して浮かび上がってきた駅舎に盛り込む要素は、地域の人たちを包み込むような「あたたかさ」や「親しみやすさ」、国内外を行き来するお客さんに向けた「わかりやすさ」だった。
リニューアルの構想が少しずつ固まってきた。新京成電鉄が高架になることで3機の自動改札機がなくなり広い空間が生まれた。この空間に社内から集まったアイデアを盛り込んだ。
企画が通り順調にリニューアルが進む中、2019年9月巨大な台風15号が関東を直撃した。千葉県は特に被害が大きく、電柱の倒壊や電線の切断で長期にわたる停電に見舞われた。
山武杉の名誉回復に
停電の原因のひとつに、県内の山林に植えられていた山武杉が原因ではないか、というニュースが流れた。長年放置されて樹勢が弱くなった山武杉が倒れて、電線を巻き込んだ可能性がある、というのだ。その後、9月末に行われた国と県の合同調査により停電の原因が山武杉の倒木とは必ずしも言えない、という結論が出された。
そのニュースをきっかけに北総鉄道社員のあいだで「今回のリニューアルには、千葉県産の山武杉を使ったらどうだろうか」というアイデアが生まれた。駅舎のリニューアルに地元の山武杉を使えば、親しみやすさというイメージにもぴったりあう。先行して工事を行った駅舎の入り口も木目調の素材を使っているので、デザインにも統一性が持たせられる。そして台風被害で一瞬、悪役になりかけた山武杉の名誉回復とイメージアップにも千葉県の鉄道会社として貢献できる。
ただし大きな問題があった。予算である。
「実は、北総鉄道は厳しい経営状態にある会社なのです。当時決められていた予算内で新たに山武杉を使用するのは困難でした」と伊藤氏は言う。
半ばあきらめかけていたとき、同じ部署の社員が千葉県森林課が推進する「ちばの木の香る街づくり推進事業補助金」制度に応募してみてはどうか、と助言してくれた。千葉県民が利用する展示効果の高い民間施設には、経費の1/2以内、上限100万円まで助成してくれるという。ただし、鉄道会社では利用の前例がなかった。
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