ゴーン事件で「サラリーマン取締役」は変わるか 日本企業のガバナンスに突き付けられた課題

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自社製品の一部に、温度と湿度によっては欠陥が生じる恐れがあることを、経営陣は事前に把握していた。タカタはこの危機を乗り切れなかった。エアバッグの不具合をごまかす指揮を執った高田重久は、経営が破綻するまで社長職に居座った。

日本企業の本性は簡単には変わらない

これらの度重なるスキャンダルに揺り動かされ、日本は変革を決意した。2015年3月5日、金融庁は「コーポレートガバナンス・コード原案」を公表した。これは日本企業の企業統治を欧米の基準に引き上げるためのガイドラインだ。

金融庁は、強制力をもたないこのガイドラインを、順守すべき原則にする予定だ。「適用できないのなら釈明しなければならない」のである。

日本の財界はこうした取り組みを歓迎し、企業は変革に踏み出した。たとえば、リストラの真っただ中にあった日立製作所の会長である中西宏明は、取締役会を構成する13名の取締役のうち、5人の外国人と2人の女性を起用することによって、監督機能の強化を図った。

しかし、日本企業の本性はそう簡単には変わらない。金融庁が求めるのは努力義務であって、それは処罰をともなう法律ではないため、改革の気運は経営者のやる気のなさ、そして彼らの演技によって削がれた。

今日、上場企業における社外取締役の存在は珍しくなくなったが(5年前は上場企業全体の18%)、ある経営コンサルタントは、「社外取締役に就任するのは会長のゴルフ仲間や学友など、取締役の任務を果たす能力をもたない人物であることが多い」と嘆く。ただ同時に「矛先を日本の企業だけに向けるのはおかしい」とも述べる。

公益社団法人「会社役員育成機構(BDTI)」の創設者であり、15年前から日本で企業ガバナンスの改革に尽力してきたニコラス・ベネシュは、「長年にわたって経営者に過剰な報酬を払ってきた欧米の企業には、悦に浸る資格はないだろう」と指摘する。フランス、ドイツ、韓国、さらにはアメリカでも、派手なスキャンダルが発覚した。

2015年末、フォルクスワーゲンは、ガソリン車とディーゼル車に対する排気ガス規制を逃れようとした「ディーゼルゲート事件」によって深刻なダメージを負った。フォルクスワーゲンの会長マルティン・ヴィンターコルンは辞職を余儀なくされた。

アメリカでは、不正会計の発覚により、ウィーワークの創業者アダム・ニューマンは、事務所賃貸業務に特化した同社の上場を断念した。「運転手付き観光車両(VTC)」最大手のウーバー・テクノロジーズは、共同創業者トラヴィス・カラニックのセクハラや人種差別などの行為が許容限度を超えたため、カラニックと決別した。

世界最大の電子製品メーカーのサムスン電子の経営者である李在鎔(イ・ジェヨン)は、韓国大統領への贈賄事件で2017年から2018年まで投獄された。李は再び収監されるかもしれない。

これらのスキャンダルと並行して、所得格差を糾弾するという大波が世界中の大企業に押し寄せている。この大波から逃れられる経営者は誰もいない。

カルロス・ゴーンはこの波の高まりを、身をもって感じていた。顔の見えない市場と世論は、メディアの情報を介して、企業資産の私的流用だけでなく、社会的な問題を引き起こす用途にそれを使うことも見逃さなくなった。

自身の地位を利用して得られる選択肢を熟知していたゴーンは、欧米諸国の経営者と同様に巨額の報酬を手にするだけでなく、日本の経営者と同様に現物給付までも享受した。ところがゴーンには、そうした欲張りな選択が転落への道を疾走することになるという自覚はなかったのである。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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ヤン・ルソー ジャーナリスト

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Yann Rousseau

フランスジャーナリスト養成センター卒業。『ル・モンド』紙に入社後、兵役制度によりカンボジアへ。退役後プノンペンでジャーナリストとして活動、2001年にパリへ戻り、仏経済紙『レ・ゼコー』に入社。2005年から北京特派員、2010年より東京支局長に就任。ラジオ局「ラジオ・クラシック」の東京特派員、同「フランス・アンフォ」のコラムニストも務める。

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