ゴーン事件で「サラリーマン取締役」は変わるか 日本企業のガバナンスに突き付けられた課題

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1999年に日産に入社して日本を変革したゴーンは、今回の事件でも、(渋々ながら)同じことをやってのけようとしたのではないだろうか。日本では、革命をもたらすのはしばしば外国人なのだから。

日本人経営者の報酬は本当に低いのか

ゴーンが操る「アライアンス」の二本柱である日産とルノー。両社が被った金銭的な被害額を比較すると、ルノーよりも日産のほうが甚大だった。ルノーでは、フランス政府という株主が存在したにもかかわらず、ゴーンが構築したガバナンスは暴走した。それでも、会社を食い物にしようとするゴーンの欲望は抑制された。

ガバナンスという点で見ると、日産はルノーよりもはるかに寛容だったため、より大きな被害を被ったということになる。こうした怠慢は日産という企業だけの問題なのか。それとも日本企業に特有のガバナンスの甘さと解釈すべきなのだろうか。

日本企業の経営者は質実剛健な人物だという逸話は、日本人の誇りでもある。実際、毎年開示される日本企業の経営者の報酬額は、外国の同業他社の経営者よりも少ない。

日本で最も報酬額の多い企業経営者の座に名を連ねるのは、日産のゴーンはもちろん、ソニーのハワード・ストリンガー、武田薬品工業のクリストフ・ウェバーなど、外国人CEOたちだ。

日本では、ゴーンの巨額な年収はあらゆる手段を用いて俎上に載せられ、大企業の役員報酬の透明性を要求する法律を施行する際の口実にもなった。

経営者の報酬が巨額化する傾向と反する例を紹介すると、世界最大の自動車会社、トヨタ自動車の副社長であるフランス人ディディエ・ルロワの2017年度の報酬額(ボーナスは含むが、配当は除く)は、社長の豊田章男よりも2.7倍も多かった。

だが、開示された金額が示すのは真実の一部分でしかない。日本企業を監査したことのある外国の会計事務所によると、日本企業の経営者はヨーロッパやアメリカの企業の経営者よりもはるかに大きな「役得」を享受しているという。

彼らの報酬額が外国の同業他社の経営者より少ないとしても、その「役得」は海外の経営者をはるかに上回るというのだ。たとえば、終身待遇、運転手付きの車、社宅、高級レストランやバーなどでの公私混同の交際費だ(ヨーロッパ諸国の税務当局はこうした交際費を認めない)。

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