ゴーン事件で「サラリーマン取締役」は変わるか 日本企業のガバナンスに突き付けられた課題
この状況を踏まえ、東京を拠点に活動するヨーロッパの会計士は、「問題は、日本企業が経営者に支払う額でなく、負担している額だ」と要約する。これらの現物支給は自ら率先して会社に忠誠を尽くすことに対する対価であり、こうしたやり方は確かに、外国企業の経営者が想定するものとは異なる。
日本企業を襲った数々のスキャンダル
企業という存在が、全員の監視のもと誠実に活動する場合であっても、日本企業の場合、その誠実さを担保する勢力は貧弱である。たとえば、取締役会だ。
複数の日本企業の取締役を務めた経験をもつある外国人は、「経営幹部だけでなく従業員全員を制御する役割を担うはずの日本の取締役会は、執行役員の集まりにすぎない」と酷評する。ジェフリーズ証券会社のズヘール・カーンもこれに同調する。
「定年退職寸前のサラリーマンである日本の取締役は、企業活動に積極的に関与しようとしない。結果として、彼らは企業を改革しようとしない」
2010年代に「日本株式会社」を打ちのめした数々のスキャンダルを振り返ると、経営者たちが自分たちの使命を怠ってきたことがわかる。すなわち、顧客、株主、さらには世間に不利益をもたらすという自社の深刻な事態を解明するのではなく、自社の評判を守るという近視眼的な行動を優先したのである。
2011年、光学機器と電子機器のメーカーであるオリンパスは、株価が急落して破綻寸前の危機に陥った。社長就任直後、イギリス人マイケル・ウッドフォードは大掛かりな粉飾決算の実態を公表した。
オリンパスでは長年にわたり、1990年代に被った多額の損失を隠すための秘密資金を確保するために、歴代の経営トップは不透明で高額な企業買収を行ってきた。取締役会がそれに疑念を述べることはなかった。結果として、およそ15億ドルの資金が、過去の損失を埋め合わせるために不正に流用された。
東芝では、経営トップがかけた強烈な圧力により、子会社の責任者たちが、2008年から2015年にかけて、財務体質の悪化をごまかしたり、利益を1600億円以上も水増しさせるといった粉飾を行った。東芝の場合も、経営陣は何も見ず、あるいは見ようともせず、その後に行われた大量の人員削減を嘆いただけだった。
タカタのケースでは、死亡事故が相次いでも、経営陣は誰も何も言わなかった。同社製の「炸裂するエアバッグ」によって世界中で少なくとも22人のドライバーが命を落とし、180人以上のけが人が生じた。