ポジティブ独身シニアの生活と本音に肉迫。ひとりの人生も、いいじゃないか!

独身者のライフスタイルは、家族持ち以上に多彩だ

腹をくくらないと生涯独身なんてできません
 74歳女性

70代で「手帳がないと心細い」という女性は珍しい。石田文子さん(74・仮名)は都市銀行で定年まで勤め上げ、さらに関係会社で64歳まで働いた。今は悠々自適の一人暮らしだ。

厚生年金と企業年金を合わせた年収は600万円に上る。趣味は旅行。仏教美術を見に京都・奈良をしょっちゅう訪れる。年2回は海外へも行く。去年は春にクロアチア~スロベニア、秋にはイタリア南部を巡った。有志とつくった“ヨーロッパ研究会”で戦後現代史を学ぶのも楽しみだ。スケジュールが書き込まれた手帳は、古巣の行員に頼んで分けてもらっている。

新日本製鉄とアルセロール・ミタルの攻防を取り上げて話題になったNHKスペシャルはわざわざ録画して見た。経済へのアンテナは今も鋭い。「マヨネーズ値上げの話題なんて聞くと、インフレが心配ね。新円切り替えのときの悪夢がよぎるわ」。

石田さんは12歳で終戦を迎えた。価値観が引っくり返るときの思いを今も忘れない。「自分しか頼るものがないという事実。軍人だった父も公職追放された。自分の力で生きないといけないと痛感した」。

翌年、旧制女学校に入学。次の年から学制改革で6・3・3制や男女共学が導入され、「古い教育を受けた最後の世代」という自負がある。

卒業後、都市銀行に就職。全国への支店網拡大の時期で採用数は多く、石田さんの同期も女性だけで150人いたという。「そのうち私を含めて10人が定年まで勤めたけど、1年下は1人、2人しか残らなかった。教育環境の違いじゃないかしら」。温和な表情の下に、社会を単身、生き抜いてきた矜持がのぞく。

石田さんは一貫して人事畑を歩んだ。最初は給与計算程度だったが、やがて賞与や昇格昇級にかかわる重要な仕事を任されるようになった。「責任を与えられると、面白くなって……」。他行との合併も、張り合いのある大仕事だった。

結婚を考えたこともあるが「なにせ忙しくて。当時は土曜日も出勤だったし、大晦日も営業。連休なんて正月三が日くらい」。企業の要である人事部には、支店を経験して配属される既婚者が多く、「独身男性との出会いも少なかったわね」と笑う。

独身者がマイノリティであることを痛感したのは、永年勤続表彰パーティのとき。「男性は夫婦で招かれるから、私も母を連れて来ていいかと聞いたら、ダメだと言われて。記念品の腕時計も、独身女性は自分用しかもらえない。やっぱり夫婦が社会の基本単位なんだと思ったわ」。

でもそれも、そのときだけ。「私は“確信的独身者”ね。そのために経済的にも自立しようと生きてきた。腹をくくらないと生涯独身なんてできません」。だから、最近の独身フリーターの行く末が心配だ。

自宅は19年前に建て替えたが、最近は壁の塗り替えなどに手間がかかる。健康には自信ありでも「患ったら、どうするか」と思うことが増えてきた。両親は幸い、介護の必要なくこの世を去ったが、はたして自分もそうだろうか。

仏教美術の仲間で、独身女性同士で住んでいる人もいる。「仲のよい友人同士で、住まいを共同所有し、生き残ったほうが全部もらう契約。『いいわね』なんてうらやましがっていたのだけど……」。片方がアルツハイマーにかかってから歯車が狂ってきたらしい。「いくら仲良しでも、どちらかが長患いするとか、介護が必要になる事態は想定していなかったはず。やはり一人が気楽なのかもしれません」。

老人ホーム入居という考えも頭をよぎる。「でも、東京駅6時36分発のひかりに乗れる距離の所じゃないとダメね。まだまだ旅行に行きたいもの」。

石田さんは最近、「エンディングノート」を手に入れた。生い立ちから財産内容、葬式の出し方、友人リストなどを書き込む、いわば現代風の“遺書”だ。

会社を経営していた知り合いの死後、周囲が会社を畳むのに難儀したと聞いて購入したものだ。「半分まで書いたんだけど、しょっちゅう気が変わっちゃって。次の誕生日までに書けばいいかな」。

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