ポジティブ独身シニアの生活と本音に肉迫。ひとりの人生も、いいじゃないか! 独身者のライフスタイルは、家族持ち以上に多彩だ

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こんなに長く生きるなんて思わなかった
 86歳女性

「この前、出掛けた先で転んじゃって……」。杖をつく姿が痛々しい北田薫さん(86・仮名)だが、脚以外は元気そのものだ。

高等小学校を卒業し、16歳で某省庁の現業部門で働き始めた。第一線で定年まで勤め、省の関連施設で数年働いたあと勇退。現在は俳画に旅行にと充実した毎日を送る。毎月の年金受取額は25万~26万円。

父親を3歳で亡くし、4人兄弟は母親と祖母に育てられた。最初から進学は選択肢になかったという。

「事務員ヲ命ズ」と書かれた辞令。入局後最初にもらったものだ。もう黄色く変色しているが、今も大事にとってある。

入局してからの北田さんは一心不乱に働いた。そのかいあって、女性課長の草分けとなり、さらに格上の業務課長にもなった。50歳から約10年は業務課長などとして広島、名古屋、金沢、神戸を転々とした。

「一生懸命働いたし、遊んだ。山登りが楽しみでね。お酒もよく飲みました」。山登り仲間も含めて男性の友人はいたが、「割合鈍感なほうで」結婚には至らなかった。「特に寂しくもないし、煩わしさもない。葬式は甥に出してもらうつもりだからいいのよ」。

都内で一人暮らしするマンションには、タンスが2竿に洋服ダンスも2本ある。中には、勤めていた当時にあつらえた洋服がずらりと並ぶ。「ヒラの課長と違うから、吊るしなんて着れないでしょ」。赴任した各地で、百貨店の上得意だった。

祖母と母は80歳と79歳でそれぞれ亡くなった。「漠然と自分も70歳までしか生きないのかなと考えていたのが、86歳よ。こんなに長生きするなんて思わなかった」という北田さん。いま住んでいるマンションの家賃は15万8000円。もう少し安い所に移ろうかと、引っ越しを考えている。

最寄り駅によさそうな物件があったので電話したところ、「うちは60歳までしか入れません。お客さん、80歳? えーっ」。あっけなく断られた。知り合いに勧められて区役所で相談したところ、いくつか適当な物件を紹介してくれた。現住所よりかなり離れはするが月7万8000円で気に入った物件があり、目下、抽選待ちだ。
(週刊東洋経済07年6月9日号)

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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