「副社長職廃止」の背景に「ポスト豊田章男」問題 コロナ禍後に経済を牽引する自動車産業の顔
アメリカでは、副社長すなわちバイスプレジデントの地位が日本に比べて低いケースが多い。その点、「番頭」は、「副社長」以上の重責を担うことになる。小林氏は、社長の豊田章男氏の番頭役として、あらゆる領域に目配りする役割を担ってきた。それは今後も変わらないだろう。むしろ、これまで以上に重要度が増すのかもしれない。
豊田氏は、副社長職廃止にあたって次のように述べている。
「いま、私がやらなければいけないのは何よりもトヨタらしさを取り戻すことです」
社長在職11年で、この5月に64歳になる豊田氏にとって、後継者問題は切実だ。残された時間は多くはない。副社長職廃止の背景には、ポスト章男問題があるのだ。
「副社長という階層をなくしたのは、次の世代に手渡しでタスキをつなぐためです。そのためには、私自身が次世代のリーダーたちと直接会話をし、一緒に悩む時間を増やさなければいけない」
と、豊田氏は語っている。
トヨタは現在、CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)によって引き起こされる100年に1度の大変革期において、「モビリティカンパニー」へのフルモデルチェンジを進めている。そこに、コロナ危機が重なった。その影響は、2008年のリーマン・ショック以上に大きく、しかも長丁場になるといわれる。
新体制は、突如、降りかかった苦難の克服と同時に、コロナ危機後のダメージからの回復という新たな任務を帯びたわけだ。
自工会会長を続投
豊田氏は4月10日、会長を務める日本自動車工業会に加え、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会の4団体合同で、Web配信による緊急記者会見を行った。
異例の記者会見は、豊田氏がほかの3団体に呼びかけて実現した。豊田氏が会見でまず訴えたのは、「雇用を守る」という強いメッセージだった。
「自動車産業は、日本経済の崩壊の歯止め役として、踏ん張って経済を回し続け、なんとしても雇用を守っていく。そのために、絶対に事業を止めぬよう努力してまいります」
と、豊田氏は述べた。
実は、昨年9月、自工会は豊田氏の会長職の続投を全会一致で決定した。本来であれば、豊田氏の任期は今年5月で終了するが、東京五輪を控え、知名度や継続性などを重視した結果だった。
考えてみれば、自動車業界がコロナ危機に直面する中で、豊田氏の会長職続投は、正解だったといえるかもしれない。
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