今、体育会学生を企業がここまで欲しがる理由  あのスポーツ人材会社が見せた採用の「熱量」

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もう一人異色の経歴を持つのが清水健三氏。海外が長く、5歳からテニスに取り組み、高校をスポーツ推薦で入学した腕前だ。清水氏はスペイン在住のジュニア時代に、同学年のラファエル・ナダル選手と対戦している。「当時から世界一になる選手と言われていた。何があっても勝てないとコーチに言われ、思いっきりやった。負けました」と笑う。

プロを目指した清水氏だったが、高校生のときに出場したアメリカのフロリダ大会で見た、ジョン・イスナー選手のプレーに圧倒された。2ⅿを超える長身で、サーブは男子でもトップ級。恐ろしいのは、そんな選手ですら、かつて対戦したナダルやロジャー・フェデラーなど、世界のトップ選手に及ばないという現実だった。そこでプロの夢を諦めたという。

ナダル選手と対戦経験を持つ清水健三氏。コンサル時代にパラアスリートの講演支援を行う機会があり、それを機に「スポーツの仕事に就きたい」と思うようになった(写真:スポーツフィールド)

清水氏はこう語る。「スポーツ人材の強みは、誰もが挫折を経験していること。人生が終わると思うほどの挫折を何度も味わう。それでも、どうすればできないことをできるようになるかと考えて、ポジティブに進む。この姿勢はすべての職業で強みになる。研究開発やプログラミングなど、最初はまったくできないことでも、いかにキャッチアップしていくかが重要だ」。

大学ではスポーツ政治・経済などを学び、卒業後は外食チェーンやコンサルを経験、「スポーツ関連の仕事がしたい」とスポーツフィールドに転職した清水氏。現在は、子会社のスポーツフィールドイノベーションズで代表を務め、新事業に取り組んでいる。

主に展開するのは高付加価値型のサッカースクールである。指導するスタッフ全員が元Jリーガーや大学トップレベルの選手・指導者という布陣だ。技術面だけでなく、選手として規範的な行動をとるための教育を重視し、カメラの前でどうインタビューに答えるかなど、メディア対応も学ぶ。

事業の目的は、スポーツで人間の考え方や行動が磨かれることをデータ化し、スポーツの価値を可視化すること。かなりの難題だが、何かしらのデータでスポーツ人材の価値を証明できれば、スポナビの事業展開にもプラスになる。「スポーツが人間に与える影響はまだはっきりしていない。解明できるかわからないが、まずは地域に貢献できるような、スポーツの価値を体現した人間を輩出することが目標になる」(清水氏)。

目標はスポーツの価値を体現すること

今後の課題は、現在手薄な上位校の学生にもスポナビのサービスを利用してもらい、シェアを高めることだ。大学の部活のスポンサー企業を開拓する活動など、就活ではない場面でも、学生との接点を積極的に増やしていく。企業に対してはさらにマッチングの精度を高めるため、「学生の同意のもと、面談時のカルテを利用し、学生の4年間の活動を詳細に伝えるサービスなどもやっていきたい」(久保谷氏)。

足元では新型コロナウイルス感染症対策も課題である。イベントや直接の面談は難しい状況だが、電話やメッセージアプリなどで、スタッフは小まめに学生の相談に乗るようにしている。不安な状況の中でも、就活を初歩からサポートしてきた信頼関係があるからこそ、学生もスタッフを頼りにするようだ。4月には企業のWeb説明会の運営を支援し、体育会学生を動員するサポートサービスの提供も始めた。

今や社会人の転職は当たり前になり、「イメージと違った」という理由で早期に転職を決める新卒社員も珍しくない。そうした中、自ら課題を見つけ、克服する能力を身に付けた体育会学生の魅力は増している。企業と学生の期待に応えながら、スポーツ人材の価値を広く社会に知らしめることができるか。「体育会系集団」のスポーツフィールドが成長を遂げることこそ、その証明になるはずだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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