脱線FRB ジョン・B・テイラー著/村井章子訳 ~当局の行動と介入が金融危機の原因と主張
本書は、今回の金融危機について、実証分析を基に、平易かつ簡潔に論じたものである。
まず、危機の原因。多くの人の認識どおり、ITバブル崩壊後にデフレ回避策として採られた米国の積極金融緩和が住宅バブルの原因だが、バブルは米国外の多くの国でも生じた。実証分析から、米国の金融緩和が各国の金融政策に大きく影響していたことが示される。米国の利下げはドル安圧力を生むが、多くの国は自国通貨上昇を回避するため、緩和的な政策を行ったということだろう。現在、米国のゼロ金利政策の効果が波及している新興国では、バブルが懸念されているが、残念ながら本書の教訓は生かされていない。
次に危機はなぜ長引いたのか。本書は、当局が危機の原因を流動性不足と誤認したためと指摘する。真の原因は、金融市場における取引相手の破綻や債務不履行のリスクの高まりであった。しかし、1930年代に大恐慌の原因となった流動性不足が今回も危機の主因と誤認し、当局が流動性供給に主眼を置いたために、銀行の抱える不良資産の切り離しや資本注入が先送りされ、危機が長引いた。さらに、流動性供給のための積極緩和が、ドル安や原油高をもたらし、米国など原油輸入国の内需を悪化させたという。バブルは崩壊後に積極緩和で対応すればよいとする主流派の考えを再検討する必要がある。
最後に、発生後1年以上も経って危機がなぜ悪化したのか。リーマン救済拒否という単純な図式を著者は否定する。救済の適用基準や手続きが過去の事例から大きく逸脱したため、政策に対する不確実性が高まり、危機に拍車をかけたと論じる。
市場の失敗ではなく、当局の行動と介入が危機の原因という主張に評者も同意する。裁量政策の限界を認識させる一冊だ。
John B Taylor
米国スタンフォード大学フーバー研究所主席研究員、同大学経済学部教授。専門は金融、国際経済。金融政策運営の指針「テイラー・ルール」を導出。大統領経済諮問委員会(CEA)上級経済顧問、同委員、国際問題担当財務次官を務め、日本の巨額の為替介入にも関わった。
日経BP社 1890円 159ページ
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