アップルの新iPhone SEが格安だと言えるワケ 最新の性能を詰め込んだ「最も小さなiPhone」

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iPhone SEには、メインカメラに光学手ぶれ補正付きの6群レンズ1200万画素カメラが入る。4.7インチのiPhoneでは初めて採用されたフォーカルピクセルによって、素早いオートフォーカスを実現し、人物を対象として背景をぼかすポートレートモードも搭載する。また逆光でも被写体の細部まで描くスマートHDRなど、iPhone 11で人気のあるカメラ機能をサポートする。

インカメラにはiPhone 11のようなTrueDepthカメラが搭載されていないにもかかわらず、シングルカメラでポートレートモードに対応したのも初めての試みだ。しかも、動画撮影時の手ぶれ補正まで実現する。これらはA13 Bionicの処理性能の高さを生かした結果であり、カメラとしてみれば、iPhone SEはアップルが設計する最新独自チップの性能を最大限に引き出す実装と見ることができる。

もちろん、カメラ体験で比較すれば、iPhone 11に分がある。広角カメラの搭載で人物以外のポートレート撮影に対応し、より暗所に強いナイトモードも利用できる。またTrueDepthカメラはより正確なポートレートセルフィ撮影が可能だ。

制約はあるが、iPhone SEがターゲットとするユーザーにとっては、iPhone XSとiPhone 11を比較したとき以上に、iPhone SEのカメラ性能の高さに驚き、撮影する写真は見違えるほどのものになるはずだ。

このあたりは、高性能チップを独自設計しているアップルならではの戦略だ。チップ単体での販売や低価格モデルへの採用による採算性を考える必要がないからこそ、低価格モデルに最高のチップを採用することができる。これに特化したチューニングを重ねたソフトウェアの組み合わせによる価値の出し方で、低コストのスマートフォンの「体験」の水準を大きく引き上げることになった。

これは、現在も薄利多売状態に追いやられているミドルレンジ以下のAndroidスマートフォンにとって、さらに厳しい競争を強いられることになる。その意味で、アップルは特に先進国のミドルレンジで競合するスマートフォンの息の根を止めようとしていることがわかる。

ターゲットに充分響き、拡大させる可能性も

iPhone SEは、最新のiPhoneラインナップと同じ性能ながら、画面サイズが小さい。iPhone 11は6.1インチ、iPhone 11 Proは5.8・6.5インチとなっており、4.7インチは最も小さな画面サイズとなる。今回、SEの意味には特に言及していないようだが、「Small Edition」の略だとしてもしっくりくるし、iPhone体験の基本を押さえている意味で、「Standard Edition」と呼んでもよい。

価格を抑えながらiPhoneの最新モデルを手に入れたい人、小さな画面サイズがよい人、AndroidからiPhoneに乗り換えを考えている人にとっては、期待以上の働きをしてくれる満足度の高い1台になりそうだ。

そして、ビジネス用の電話として企業が調達したり、子ども向けに購入するなど、新たにiPhoneを手にする人を拡大させる可能性もある。ターゲットのニーズを満たし、ターゲットを押し広げる、そんな戦略的な価格と性能のバランスは、春から夏にかけて、スマートフォン市場の中心的な存在になっていくだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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