原油価格が新型コロナ不況でも上昇する理由 米国ガソリン需要半減でも価格は反転する?

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ではこうした状況下、原油価格はこのまま下落の一途をたどるのであろうか。恐らくその答えは「ノー」であり、相場は意外に早く当面の底を打ち、上昇に転じる可能性が高いと考える。短期的には1バレル=15~16ドル台まで値を崩すことはあるかもしれない。だが、そうした価格水準は長続きすることはないだろう。以下にそう考える理由を説明したい。

今回のOPECプラスの減産量が、世界市場における供給過剰を解消するには不十分なことは確かだが、だからといってこの先、供給過剰がさらに拡大、在庫の積み増しが加速することもないだろう。

わずか1カ月前に開かれたOPECプラスの会合で、追加減産をかたくなに拒否したロシアと、それに対して逆切れし生産能力いっぱいまでの増産を行う意向を示し、4月分の出荷価格を大幅に引き下げ、価格戦争の引き金を引いたサウジが、ともに日量で200万バレルを超える減産で真っ先に合意したことの意味は大きい。

彼らの姿勢が一変したのは、もちろん自らの行為によって原油市場が急落、WTIが一時1バレル=20ドルの大台を割り込む事態となったことで、危機感が一気に高まったためだ。

リスクと報酬のバランスを考えると好機かもしれない

今回の減産量が十分でないことは、彼らも重々承知している。もしこれでも売り圧力が衰えず、さらに値を下げるような展開になるなら、躊躇なく追加減産に踏み切るのではないか。

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需要が大幅に落ち込む中、小さなパイを取り合って相場を低迷させるよりも、大胆な減産を行うことによって価格を2倍、3倍に押し上げるほうが、結果的に石油収入の増加につながるという計算が成り立つからだ。市場がそこまで踏み込んで考えているなら、20ドルを割り込む水準ではしっかりと買いが集まってくるはずだ。

WTI先物市場が上場されて以降、価格が10ドルを割り込んだのは、1986年4月の1度しかない。1998年にもやはり10ドル割れを試す場面がみられたが、寸前で下げ止まっている。

もし20ドルを割り込んだ水準で買うことができるなら、仮に10ドル割れを試すまでに値を崩すことがあったとしても、リスクは10ドル以下に抑えることができる計算になる。一方でシェールオイルなどのコストの高い油田を中心に生産能力が落ち込む中で、新型コロナウイルスが収束に向かい需要が戻ってくるなら、上昇余地は20ドルや30ドルではきかないはずだ。

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1度生産を止めてしまった油田は、稼働を再開しようとしても、すぐに生産量が元に戻るわけではない。需要が回復する局面で生産の回復が遅れる可能性は高く、短期的にせよ深刻な供給不足が生じる恐れは極めて高いとみておいたほうがよい。

半年後にそうした局面がやってくるのか、それとも新型コロナウイルス感染の収束に1年以上を要するのかは、現時点では不明だ。

だが、景気が回復に向かうまでの期間が長ければ長いほど、開発投資が細るために生産の回復に手間取り、供給不足も長期にわたることになるだろう。こうしたリスクとリワード(リスクをとったことによる報酬)のバランスを考えれば、やはり20ドルを割り込む水準は割安であり、もし投資をするなら「買いのチャンス」と考えるのが妥当かもしれない。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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