コロナ危機対応でEUの亀裂が一段と深まるワケ イタリアの債務に懸念もオランダは強硬姿勢
第1に欧州債務危機時と異なり、コロナ危機では支援する側の国も等しく経済的な打撃に見舞われている。共同債発行のハードルが高いのは当然だが、今回の危機対応の議論では、ESMの融資条件緩和や雇用対策基金の財源をめぐって、オランダの強硬姿勢がひときわ際立つ。
債務危機のときには、ギリシャやポルトガルが金利上昇や財政緊縮で苦しんだのに対し、ドイツやオランダは金利低下による調達環境の改善やユーロ安による輸出競争力回復でむしろ潤った側面もある。この点も南北欧州間の対立の一因となった。
今回は各国が感染拡大に見舞われ、どの国も国民の命や生活が危険にさらされている。支援する側の国も厳しい環境に置かれていることで、財政負担を伴う危機対応で国民の理解を求める政治資源が債務危機のころよりも乏しいのである。オランダやフィンランドが雇用対策基金や復興基金の財源について、自国の負担受け入れに及び腰なのは、議会承認で否決される可能性が高いためだ。
また、欧州債務危機のときには、議論をまとめる立場のユーログループ議長がオランダのダイセルブルーム財務相(当時)であったことも、オランダの強硬姿勢を和らげる方向に作用した可能性もある。
EU首脳陣の交代、メルケル氏も影薄く
第2に欧州債務危機のときと異なり、危機対応での積極的なリーダシップがみられない。
債務危機の際には支援策が行き詰まると、ドイツとフランスの首脳が集まって各国の説得に動いたり、ドイツのメルケル首相や欧州委員会のユンケル委員長(当時)が仲裁役を果たすことが多かった。今回の危機対応では、財務相レベルで協議が行き詰まった後も、事態の打開を図る首脳レベルでの働きかけがあまりみられない。
昨年12月に就任したばかりの欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長(ドイツの元国防相)は環境政策などで独自色を発揮しているが、ルクセンブルクの首相兼財務相として長年危機対応を担ったユンケル前委員長と比べると、加盟国間の利害調整役を果たすことは少ない。
次の連邦議会選挙での政界引退を示唆しているドイツのメルケル首相も、債務危機時のような“駆け込み寺”の役割を果たしてはいない。フランスのマクロン大統領がひとり気を吐くが、規律重視国側の意見を代弁する存在ではない。
このあたりのリーダシップの不在は、加盟国間の移動が制限され、対面での協議ができないことも微妙に影響している可能性がある。かつては協議が行き詰まると、数人の首脳が別室に集まり、直接の説得を試みることがしばしば行われていた。また、支援条件をめぐって八方塞がりとなったギリシャのツィプラス首相(当時)がドイツのメルケル首相の下に相談に出向いたことも一度や二度ではない。ビデオ会議となると、ぎりぎりの折衝時に対面のようにはいかないのかもしれない。
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