コロナ危機対応でEUの亀裂が一段と深まるワケ イタリアの債務に懸念もオランダは強硬姿勢

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第3に、感染終息後の経済復興を支援する復興基金(リカバリーファンド)を創設する。

合意文書によれば、基金は一時的で、目的を絞り、損害に応じた規模とされ、適切な財源で賄われると曖昧な表現に終始している。基金の法的・実務的な検討はこれからで、その財源や「革新的な金融商品」の活用の是非が今後の議論の土台になるとある。この「革新的な金融商品」という言葉に、コロナ債をめぐる加盟国間の意見の相違が滲み出ている。

合意文書にそれ以上の言及はないが、会合後の記者会見でセンテーノ議長(ポルトガルの財務相)は、復興基金の財源案として、「いくつかの国は共同債の発行を通じて調達することを主張し、別の加盟国は他の手段を見つける必要があると主張した」と述べている。コロナ債を端から否定するドイツやオランダなどと、今回は合意できなくても今後の継続協議の内容として合意文書に盛り込むことを要求したイタリアやスペインなどの双方に配慮した。

この他に、EUの政策金融である欧州投資銀行(EIB)による総額250億ユーロの融資保証、コロナ危機対応での財政規律の全面適用除外、加盟国政府によるGDP比3%相当の財政出動と同16%相当の融資保証など、すでに合意済みや大枠で合意済みだった内容が確認された。

債務危機時よりも難しい今回の危機対応

財政統合と債務共有化につながる共同債の発行に、財政規律に厳格なドイツやオランダなどが反対するのは今に始まったことではない。放漫財政国の借金を規律重視国の税金で穴埋めすることは、国民の理解が得られないばかりか、財政悪化国のモラルハザード(倫理の欠如)を招く。これは欧州債務危機のときに、「アリ(ドイツ)とキリギリス(ギリシャ)」のイソップ寓話を例にたびたび語られた構図だ。

ただ、イタリアやスペインにしてみれば、コロナ危機対応での財政出動は、制御できない天災から国民生活を守るためのもので、放漫な財政運営には当たらない。EUが財政規律の適用除外を認めるのは、まさにそのためだ。そうであるならば、コロナ対応に限って財政資金の融通でも特例が認められるべきと主張する。

多くの加盟国で構成されるEUが危機対応をまとめるのに苦労するのは珍しいことではない。欧州債務危機のときも週末に緊急会合を開き、月曜日のアジア市場が開く直前にどうにか政策対応で合意し、徹夜明けで記者会見に応じる各国首脳や高官の姿をたびたび目にした。だが、今回の危機対応はいくつかの点でより難しい。

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