緊急事態なのに通勤させられる人々が抱く危難

「生物的な限界」を織り込まない社会の弱点

未知のウイルスとの戦い方は、究極的には「家にいること」に懸かっている。社会のインフラを維持し、医療体制を守るといった絶対的に必要な人々を除き、「外出しない」という決断をできるだけ多くの人々がなしえるよう、政府や自治体が財政出動を含む積極的な支援を展開することが不可欠である。安倍首相は記者会見で「人と人の接触を7割から8割減らす」と言ったが、この基本中の基本が実質的に骨抜きになっているような状態では、残念ながらウイルスとの戦いに勝利を見いだすのは難しい。これは何の武器もない戦場に放り込まれる「消耗戦」のようなものである。

これから毎日、現在のような非常時には不要不急と考えられる仕事であっても、ウイルスの感染による死の恐怖、被害と加害の両方の可能性に脅えながら満員電車に乗らなければならず、オフィスや工場などの職場で業務に従事しなければならない人が相当数いる。それは前述したように「働き方を選べない立場にいる人々」のことだ。

法人は感染しないが労働力が失われれば事業は停止

それらの人々も必ず家に帰るわけであり、そこには同居する人々がいる。「企業活動」という「対面のコミュニケーションが活発的な領域」の感染領域が残るだけでしかない。なるほど、理屈のうえでは「法人」はウイルスに感染したり死んだりはしない。ウイルスに感染したり死んだりするのは身体を持つ「ヒト」だけである。

だが、肝心の労働力が損なわれれば事業は早晩停止する。とはいえ、経済の循環というものを数字のうえだけで眺めている者たちからすれば、この「消耗戦」の死亡率・重症率は「歩留まり」がいいと判断したという見方も成り立つ。意図がなくともそう理解せざるをえない。

もっと別の視点から冷静に眺めてみれば、わたしたちもこの「消耗戦」への道を少なからず準備した面がある。

それは「生物的な限界」を度外視した経済システムの常態化を、主に消費者としての利便性から進んで受け入れてきたからだ。

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