福島原発、見えぬ「トリチウム水処分」のゆくえ

地元林業、水産業者は処理水放出に反対姿勢

そこで、経産省は新たに委員会を2016年11月に設置し、技術面だけでなく、風評被害など社会・経済的影響についても検証。2020年2月に取りまとめられた報告書を踏まえ、東電は「海洋放出」案と「大気中での水蒸気放出」案の2案からなる検討素案を3月24日付で公表した。同社幹部は、風評被害対策の強化と引き換えに、海洋放出を軸に2案を検討していく考えを記者会見で示している。

経産省や東電のこうした姿勢に対して、4月6日の意見聴取会では異論が相次いだ。福島県旅館ホテル生活衛生同業組合の小井戸英典理事長は、現在も続いている顧客離れなどの被害について、「実態のない事象を嫌う風評被害では断じてない」と言い切った。

そして、「県内の旅館ホテル業界は、放射能拡散の実害によっていまだに大きな経済的なダメージを受けている。(ALPS処理水が)致死量に満たない『毒入りりんご』だから安心だと言われても、そう思う人はいない。どれだけ(ALPS処理水を海水などで)希釈しても、不安をゼロに至らしめることは容易でない。旅館ホテル業界はいまだに経済的損害を受けている被害者であると認識してほしい」と訴えた。

東電は原状回復義務を認めず

東電はこれまで、「風評被害」という言葉を多用する一方、健康被害などをもたらす実害についてはきわめて限定的にしかその存在を認めてこなかった。

実害の場合、原因を除去しなければ被害がなくならない。仮に実害を認めると、東電自身が大規模な除染など原状回復作業を余儀なくされる。しかし、東電は、事故で原発の敷地外に拡散した放射性物質は「無主物」(所有者のない物質)であるなどとして、原状回復義務を認めてこなかった。

一方、風評被害の場合は加害者である東電の責任があいまいになりがちで、実害がないのに根も葉もないうわさを立てているとして第三者に責任を帰すことになる。東電は福島県産品の即売会など風評被害対策への取り組み姿勢を強調しているが、有害物質を環境中にまき散らした加害責任に基づく取り組みではない。

小井戸氏は「海洋放出が最も損失の少ない処分案である」とした一方で、仮に海洋放出が実施された場合に実害に対しての厳正な補償措置を講じることを国に求めた。

意見聴取会で、処理水の環境中への放出に明確に反対の意思表明をしたのが、福島県森林組合連合会の秋元公夫会長だ。秋元氏は「大気、海洋中とも、放出そのものに反対だ」と明言した。

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