武漢「都市封鎖」終えた中国のV字回復シナリオ 5GからAIまで「新型インフラ建設」大作戦

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その方針を再確認するように、3月27日に開かれた中国共産党中央政治局会議では、「通年の経済・社会発展の目標を達成するよう努力し、全面的な小康社会を実現する」と打ち出した。習指導部は5.6%超という高い目標にこだわっているようだが、これはかなりの無理筋だ。たとえば世界銀行は1~2月のデータを踏まえて今年の中国の経済成長率予想を2.3%としている。1月時点で予測した5.9%成長から大幅に下方修正した。この状況で、中国政府は本気で5%台後半の成長を狙うつもりなのか。

足元の苦しい数字と、ここからのV字回復をどう結びつけるか。財政出動への期待が高まるが、2008年のリーマンショック後に行われた総額4兆元(当時のレートで57兆円)の景気刺激策は地方政府に膨大な債務を残した。また、投資回収が見込めるようなインフラ案件もあらたか出尽くしている。

「新型インフラ建設」で景気浮揚図る

そこで登場してきたのが「新型インフラ建設(新基建)」という概念だ。5G(第5世代移動通信システム)、データセンター、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)など、デジタル産業に関する設備を大々的に拡充しようという構想である。5Gネットワークだけで、2025年までに投資額は累計1.2兆元(1元は約15円)とされている。

この分野で注目されるのが、元重慶市長の黄帆奇氏が書いた「新型コロナ蔓延下でのグローバルサプライチェーン再構築」という論文だ。黄氏は金融・経済分野のテクノクラートで、重慶市でのデジタル産業育成と高度成長実現の立役者として知られる。重慶市では最高実力者である共産党委員会書記が薄熙来、孫政才の2代にわたり失脚したが、彼らに仕えた黄氏は無傷で生き残った。それだけ政策手腕が傑出しているのだろう。

黄氏は新型コロナによる世界的な経済収縮は、中国のデジタル産業にはむしろプラスだという。蘇州や重慶などには電子関連産業のクラスターが形成されており、世界の先端的な製造業を中国に誘致して定着させるための基礎となる。

そうした動きと、中国が進める「広東・香港・マカオグレーターベイエリア」「長江デルタ」「北京・天津・河北省」「成都・重慶経済圏」の4つの広域経済圏構想とを組み合わせることで、中国におけるデジタル産業の基盤を強くしようというのだ。ふつうは広東、長江、北京の3大経済圏で済ますところに「成都・重慶」が入っているのは、一帯一路構想を意識したものだろうか。

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