緊急事態宣言に安倍首相「政権の命運」の賭け 小池都知事を牽制、経済対策に与党の不満も

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ただ、経済対策の規模を、当初想定された20兆~30兆円から一気に108兆円としたのは、「首相決断によるサプライズ」(官邸筋)と受け止められた。7日に緊急事態宣言と超大型経済対策をワンセットで打ち出したのも、「首相の練り上げた作戦通り」(自民幹部)との見方が少なくない。

7日の記者会見で安倍首相は、緊急事態宣言発令の理由として「医療体制は危機的状況で時間の猶予はなくなった」ことを強調。その上で、コロナショックに対応する最重要ポイントとして「人と人との接触を7~8割削減できれば感染拡大は防げる」と国民の協力を繰り返し訴えた。

そして、「日本経済は戦後最大の危機だが、雇用と生活は守り抜く」「正しい情報に基づいて冷静に行動してほしい」などと語った。

会見は1時間以上に及び、首相は丁寧な説明で国民の理解を求める姿勢をアピールした。最後に外国メディアの特派員から「今回の対応がもし失敗したら」と突っ込まれると、「最悪の事態になれば私が責任を取ればいい、というものではない」とかわした。

安倍首相はあえて熟慮のふりをした

これに対し、野党側は「遅きに失した緊急事態宣言」(枝野幸男・立憲民主党代表)、「ふくらしこで膨らませた経済対策」(玉木雄一郎・国民民主党代表)とそろって批判した。事前の国会報告となった衆参議院運営委員会の質疑でも、野党側は「自粛要請と休業補償などがワンセットでなければ、感染拡大防止にはつながらない」(小池晃・共産党書記局長)などと追及した。

ただ、野党も緊急事態宣言発令は評価せざるをえず、「協力できることは最大限協力する」(枝野氏)と、補正予算の短期審議・成立にも理解を示した。このため、与党からは「批判は単なる野党の遠吠えに終わった」(自民幹部)と余裕の声も相次いだ。

安倍首相の決断の経過を振り返ると、「手遅れ批判も甘受して、あえて熟慮のふりを続けてきた」(閣僚経験者)との見方も少なくない。宣言発令の準備を整えた3月末以降、安倍首相や西村康稔・コロナ対策担当相は「躊躇せずに決断」というセリフを繰り返してきた。

その間、感染者数の急増に焦る小池百合子都知事を筆頭に、大都市の知事らが早期の緊急事態宣言への期待を相次いで表明。日本医師会なども「医療的緊急事態宣言」(東京都医師会)と警告し、安倍首相の決断を迫っていた。最新の世論調査でも早期の緊急事態宣言を求める声が圧倒的で、「首相に対する包囲網」(政府筋)が拡大していた。

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