そこには、トランプ大統領ならではの“ディスクロージャー”としての「毎日の記者会見」があり、州知事たちからの強い反対があれば、その事案を数時間のうちに撤回するという「柔軟さとスピード感」が見て取れる。
アメリカは連邦国家であり、トランプ大統領はその立場上、各州政府の権限を尊重せざるをえない。当然、今回の提案がすんなり通るとは考えていなかっただろう。「反トランプ」メディアが主張するような、予想外の強い反対を受けたという表現は当たらない。ニューヨーク州政府の自治に介入すれば、批判を受けることぐらい、あらかじめ承知していたはずだ。
トランプ大統領が自らの移動制限案を撤回する可能性を初めから含んだ格好で記者団に語ったのは、彼ならではの卓越したリーダーシップとコミュニケーション術によるものだと、筆者は判断している。新型コロナウイルスの感染が急拡大しているニューヨーク地域の現実を全米の市民に知らせることによって、全米に拡大する可能性があるコロナ危機に対する現実意識を高めようとしたのだ。
「戦時大統領」としてのリーダーシップ発揮が眼目
実際、トランプ大統領はそのリーダーシップの下で、アメリカ陸軍工兵司令部と連邦緊急事態管理庁(FEMA)の協力を得て、ニューヨーク市にあるジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンション・センターをコロナウイルス治療病院に変容させた。わずか4日足らずの徹夜作業だった。その実務的な指導力は評価されてしかるべきだろう。
陸軍のみならず、海軍の病院船「コンフォート」の転用など、ニューヨーク地域の救助について、「戦時の大統領」としてのリーダーシップ発揮に努めている。新型コロナウイルス感染のリスクを背負って闘っている医療・看護・救急の専門家集団についても、その存在意義の高さを強調し、彼らに対するアメリカメディアのアンフェアな報道を強く批判している。
「戦時の大統領」の面目躍如たるリーダーシップは、3月27日、国防生産法に基づき、自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)に対して人工呼吸器の自社工場での緊急製造命令を出したことだ。
人工呼吸器の緊急製造については、自動車大手のフォード・モーターが動き出しており、トランプ大統領はGMの動きが鈍いことへの怒りをあらわにしたと報じられている。このGMへの製造命令は、アメリカ国民の多くの支持を得ていることはまず間違いない。
マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、今回の新型コロナウイルス危機を「100年に1度の危難」とみなしている。天才数学者でもあるゲイツ氏は、アメリカにおける新型コロナウイルスによる死亡率は1%程度と、CNNテレビで語っている。いまのところ、アメリカの死亡率はヨーロッパに比べれば低い。
ヨーロッパは欧州連合(EU)という国家統合体をなしているが、イタリアやスペインにおける死亡率は不幸にして高い。アメリカも、必ずしも連邦政府の思い通りにはならない連邦国家というシステム下で、いかにして死亡率の上昇を防ぐか。そこにトランプ大統領のリーダーシップが問われている。
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