東急責任者が語る、伊豆「観光型MaaS」の儲け方 「単独では儲からない」が、ビジネスになる
さらに、アナログ的で地道な販促活動が功を奏したということも書き記しておくべきだろう。
「一般に観光客は何か知りたいことがあれば、観光案内所かホテルのフロントに尋ねる。つまり、商品を買ってもらえるかはそこで勧めてもらえるかどうかにかかっている。われわれは観光案内所やホテルのフロントのスタッフ一人一人にIzukoの画面の研修を行うとともに、こういうお客様が来たらこの商品を勧めてほしいという説明まで行った。売るためには、そこまでする必要がある」(森田氏)
デジタル商品だからといってウェブ上でプロモーションすれば売れるわけではなく、一般の商品と同じような地道な販促活動が必要という、言われてみれば当たり前の視点が必要ということだ。
結果的に、伊豆の人たちはIzukoを一生懸命観光客に勧めてくれたという。その理由について森田氏は「これまで地域で地道に活動してきた、伊豆急行をはじめとする東急グループ各社のメンバーが培ってきた信頼があればこそだと思う」といい、「そうした土壌があり、その地域の将来像に対してきちんとコミットできるような土地でなければビジネスとして成功させるのは難しい」と分析する。
MaaSは儲かるのか?
今回の実証実験期間を通じて、伊豆におけるMaaSの本格実装に向けた課題も見えてきたように思う。まず1つは、「そもそもMaaSは儲かるのか、ビジネスとして成立するのか」だ。
この疑問を森田氏にぶつけてみると、「乗車券の割引率が高いこともあり、MaaS単独ではまったく儲からない」という。ただし、これは「儲かる」のスコープをどこに置くかによって答えが変わってくる。
「東急はもともと街づくりの会社。MaaS導入により移動環境などが改善されることで、観光だけでなく伊豆でワーケーションしようというような動きも出てくるだろう。そうすれば不動産価値も上昇するだろうし、セキュリティーやスマートホームなども必要になる。こうした不動産事業や生活サービス事業はグループで提供可能であり、トータルで見ればビジネスとして成立する可能性がある」と、森田氏は話す。
さらにお金の話をするならば、今回のように複数の事業者が参加した取り組みの場合、収益の分配も課題になる。
森田氏は「今回は、同じ商品に組み込んだ各事業者には実際にお客様が乗ったか乗らなかったかにかかわらず、公平に収益を分配した」とするが、同じ商品に組み込まれていても、利用された路線とあまり利用されなかった路線は当然あるはずだ。
収益分配は、今後同様の取り組みを行ううえで大きな課題になるのは間違いない。交通事業しか行っていない事業者と、「その先」のビジネスを描ける東急のような事業者では、おのずと収益分配の重要性は異なってくる。そこで、各々の交通事業者の参加メリットを失わないようにしつつ利用者に買いやすい値段にするために、実際の利用データを見つつ、バランスを取りながら収益分配をしていく施策が必要になるだろう。
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