東急責任者が語る、伊豆「観光型MaaS」の儲け方 「単独では儲からない」が、ビジネスになる

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次に、利用者視点で大きな課題と感じたのが、決済が思いのほかシームレスではなかったことだ。例えば、東京方面から特急「踊り子」で伊豆急下田に向かう場合、乗車券は熱海まで通常の乗車券を購入し、熱海駅から先の区間でIzukoを利用することになり、煩雑な印象を免れなかった。

また、特急券はIzukoで買うことができなかった。利用者からは、「せめて自由席特急券だけでも購入できるようにしてほしい」という声が上がったという。さらに、Izukoで伊豆箱根鉄道駿豆線(三島―修善寺)に乗車する場合、東海道線の函南―三島間は、Izukoに参加していないJR東海の管区になるため、別途運賃を払わなければならなかった。

仮にJR東海の協力を取り付け、函南―三島間もIzukoで移動できるようになれば、真の意味で伊豆半島をシームレスに周遊することが可能になるし、いわゆる「ICカードのエリアまたぎ問題」(例えばJR東日本の横浜駅から「Suica」で乗車し、JR東海の三島駅で降りる場合、精算しなければ出場できない問題)の1つの解決策にもなりうる。

伊豆の魅力をどう伝えるか

もう1つ課題と感じたのは、観光地としての伊豆の魅力を今後、どのように伝えていくかだ。伊豆の観光施設は、正直に言えば老朽化しているものが多い。一方で実際に足を運んでみると、隠れた魅力のある施設も多々ある。こうした魅力を発見してもらうためにも、Izuko自体が伊豆への旅行に出かけるインセンティブとなり、さらに周遊をうながす仕掛けが求められる。

その意味において、Izukoで観光施設のパスを購入すると、施設ごとにデザインの異なる「デジタルスタンプ」(スマホの画面上に表示されるスタンプ)をもらえる仕組みには、今後に向けての可能性を感じた。

東急線時代の姿に復刻した伊豆急行の車両(左)を使用した「伊豆急行 赤帯ラッピング8000系ツアー」(写真:伊豆急行)

また、2月1日に、伊豆急8000系の車両に東急時代の赤帯塗装を施し、乗車・撮影できるツアーとして開催された「伊豆急行 赤帯ラッピング8000系ツアー」などは、周遊促進に一定の効果があったという。

「Izukoのデジタルフリーパスを提示した参加者限定で、8000系の設計図をプレゼントしたところ、Izukoを使ってご来場されたお客様が参加者全体の4割を占めた。また、Izukoのデジタルフリーパスは2日間有効であることから、前泊して周辺の観光施設を周遊する参加者も1割ほど見られた」(森田氏)という。

伊豆でのMaaSの取り組みはこれで終わったわけではない。今年秋以降には、より実装に近い形でフェーズ3(仮称)が行われる予定だ。Izukoが真のインフラとして将来にわたって伊豆に定着するか、これからが本当の正念場なのかもしれない。

森川 天喜 旅行・鉄道ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)。2023年10月~神奈川新聞ウェブ版にて「かながわ鉄道廃線紀行」連載開始

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