タダ働きが露見した「自販機品切れ闘争」の真実 有給を取得できず、日常的なパワハラ行為も

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休憩も取れず、車を運転しながらコンビニで買った食べ物を口に詰め込むしかない。業務が終わり、営業所に戻るともう20時ごろだ。すでに労働時間は12時間を超えている。だが仕事はこれで終わらない。

営業所に戻った後も、回収した自販機のゴミ捨てや翌日の補充作業のための商品の積み込み、当日の業務の報告などがある。すべての業務が終わるころには21時を超えることも頻繁にあり、忙しいときは22時を回り、最長で23時になったこともあった。朝から1日15~16時間の長時間労働である。ひどいときは月の残業時間が100時間を超える。

これだけの長時間労働にもかかわらず、残業代は適切に支払われていなかった。同社では、2017年12月まで、自動販売機の飲料を運搬・補充する外回りの業務に対して、「事業場外みなし」にあたるとして、残業代を支払っていなかった。

何時間残業しても、残業代は払われない

「事業場外みなし」労働時間制が適用されると、1日何時間働いたとしても、あらかじめ労使で決めた「みなし労働時間」分を働いたとみなされる。例えばみなし労働時間が法定労働時間と同じ1日8時間であれば、実際に何時間残業したとしても、残業代を払わなくてよいということになる。

この制度は、専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制と並んで、労働基準法38条で定められた三つの「みなし労働時間制」のうちのひとつである。裁量労働制は現在も拡大する方向で法改正が議論されているが、「みなし労働時間制」は長時間労働や過労死の温床として悪名高い。

裁量労働制が、労働者に業務遂行の「裁量」を委ねる必要がある場合に適用できる一方で、「事業場外みなし」労働時間制度は、業務を一部でも事業場外で行う場合、その労働時間の算定が困難である場合に限り、適用できる。つまり、会社側の指揮監督が及ばず、労働者が実際に何時間働いているかわからないという状況に限って適用できる。外回りの営業が典型的な適用例だ。

しかし、これは現在ではすっかり時代遅れの制度となっている。というのも、現在では事業場外で勤務していたとしても、上司は携帯電話で常に指示をあたえることができる。このように、使用者の指揮監督が及ぶ場合については労働時間の算定が可能であるとして、適用が違法となるからだ。裁判例もすでに多く出ている。これだけ通信機器が発達した現在において、同制度を適法に活用することは容易ではない。

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