タダ働きが露見した「自販機品切れ闘争」の真実 有給を取得できず、日常的なパワハラ行為も

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なぜ、このような事態が起きたのだろうか。ジャパンビバレッジ東京に対して順法闘争に踏み切ったのは、ブラック企業ユニオンという労働組合だった。ここは、特定の企業にとどまらない、企業横断型で個人加盟方式の労働組合だ。当時、ジャパンビバレッジの現役社員14名が組合に加入して団体交渉をしていた。

それまで労働組合が存在しなかった同社では、会社の言うことは「絶対」で、理不尽な暴力やパワーハラスメントが蔓延していたという。例えば、法律で認められた有給休暇ひとつとることも簡単ではない。

ある支店では、従業員たちに対して、「有給チャンスクイズ」と題したメールを送りつけていた。その文面には、クイズに正解した従業員に有給休暇を認め、「不正回答」の場合は「永久追放 まずは降格」と書かれている。

しかも、その問題そのものが間違っていて「正解」は存在しない。結局有給を取得できた従業員はひとりもいなかった。支店長は普段から、有給休暇の申請をほとんど自身の権限で却下していたという。

ミスすると「公開処刑メール」が送られる

また、この支店長は、従業員が仕事でミスをすると、「公開処刑メール」と称してミスの内容や従業員が書いた謝罪文などを支店の全従業員のメールアドレスに転送したり、ミスの罰則として腕立て伏せ100回や、ほかの従業員全員へのエナジードリンク購入、1カ月間ゴミ捨て当番などのメニューが書面で用意されていた。

 さらに、ミスをした従業員の臀部を足の甲で何度も蹴り飛ばすことなど日常茶飯事であり、組合員によれば毎朝軍隊のような朝礼をさせられていたという。このようにパワーハラスメントや暴力が日常的に繰り返されていた。

会社の絶対的な支配を反映して、労働実態も極めて過酷であった。典型的な業務スケジュールは次のとおりだ。7時35分ごろに営業所に出勤、着替えて7時45分ごろにタイムカードを切り(本来、着替えの時間も労働法上は労働時間となる)、5~10分程度でそのまま自動販売機の補充に向かうためにトラックに乗り、8時前後に営業所を出発する。

1日18~20台の自販機を訪問し、商品の補充や集金、賞味期限が切れる商品の管理、自動販売機横のゴミの回収、新商品の入れ替えを行う。これに加えて、自動販売機を設置している顧客からのクレーム対応(「商品が切れている」「機械の調子が悪い」など)にも追われる。時期によっては「冷温切り替え」や、自販機内の商品を抜き取って数を数える棚卸し業務を並行して行わなければならず、その作業量は膨大だ。

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