タダ働きが露見した「自販機品切れ闘争」の真実 有給を取得できず、日常的なパワハラ行為も
では、ジャパンビバレッジ東京の実態はどうなっていたのだろうか。朝8時ごろに営業所を出発して、補充作業などを終えて20時ごろに営業所に戻るまでのあいだに、事業場外みなし労働時間制が適用されていた。この間、約12時間連続で労働するのだが、同社の「みなし労働時間」は7時間45分。実に1日4時間ほどの「ただ働き」が、連日「一見すると合法的」に行われていたことになる。
しかし、外回り時に行う業務(特に顧客からのクレーム処理)を会社から携帯電話やメールで頻繁に指示されるうえ、会社が保存するデータによって外回り中の行動内容が詳細に確認できるという実態があった。
この違法状態を是正するため、当時31歳だった北良樹氏(仮名)がブラック企業ユニオンに加入。北氏は当時、過酷な労働が続いた結果、倒れて病院で点滴を受けるまでに疲労してしまっていたという。
社員を呼び出し強引に同意書を書かせる
北氏がユニオンの支援を受けて労働基準監督署に申告を行った結果、足立労働基準監督署は労働時間の算定が「可能」であるとして、同社に対し2017年12月に労働基準法違反の是正勧告を出している。
ところが同社は、「労基署とは見解が異なる」「残業代未払いはない」として、社員に対して、労組の請求額のおよそ半分の支払いで事態の収拾を図ろうとした。具体的には、社員一人ひとりを急に呼び出して面談を行い、根拠の不明瞭な金額を提示して、その場で強引に同意書を書かせるという行動に出た。会社側は社員に「これは残業代ではない。社長のご厚意だ」とまで説明していたという。
また、すでに述べたように、同社ではほとんどの社員が法律で義務付けられた1時間の休憩を取れず、食事も満足に取れていなかった。ところがこの面談では、会社は毎日1時間の休憩を丸々取れていたとして、同意書にサインさせていた。なかには「休憩を取れていなかった」と、面談で約1時間にわたって粘ったにもかかわらず、無理やりサインさせられた社員もいた。
こうした会社のやり口に怒った社員たちが、実態を認めて残業代を払うようにと、北氏に続き、ブラック企業ユニオンに多数加入したのだった。
だが、問題はそれにとどまらなかった。労働基準監督署への申告を行った北氏に対して、ジャパンビバレッジが懲戒処分を検討していたからだ。このような露骨な違法行為と過重労働を是正させるため、労働者たちは「最後の手段」としてストライキに訴えていたのである。