イタリア発、欧州債務危機の再燃を防げるのか ECBは動いたが、財政拡張は足並みそろわず

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従来からの国債、EU機関債、社債、カバード債、資産担保証券(ABS)に加え、短期資金の調達で発行されるコマーシャル・ペーパー(CP)も新たに購入対象に加える。経済活動停止の影響が直撃する企業の資金繰り支援を補完し、CP市場の緊張緩和も同時に目指す。

購入のタイミングや対象は柔軟に運営するとしており、緊張が高まった国債を重点的に買い入れることが可能となる。イタリア同様に足元で緊張が高まるギリシャ国債も購入対象に加え、ギリシャの国債市場の安定化も目指す。そのうえで、買い入れ強化の障害となっていた買い入れルールを必要に応じて見直すことを約束し、困難に直面する経済を支えるため、あらゆる政策手段に取り組む準備がある強い決意を示唆した。

今回、ECBが機動的に市場介入できるツールを手に入れたことは、国債市場の緊張を緩和するうえで評価できる。さらに、資産買い入れを通じた中銀マネーの供給を強化し、景気を下支えする役割や、CP市場の緊張を和らげる効果も期待できる。今後は市場の不安封じ込めに向けたECBの本気度が試される。

協調的な財政出動やコロナ共同債は実現できるか

気掛かりなのは、欧州各国政府が独自で対応を強化しているが、EUとして一体的な対応が余りみられない点だ。危機の時こそ各国が結束を強化すべきはずだが、実際には自国での感染者増加を受け、医療物資の抱え込みや国境閉鎖といった真逆の対応が目立つ。欧州債務危機時に創設したEUの救済基金(ESM)を通じて、EU全体で協調的な財政出動を行うことや、ユーロ圏が共同で債券を発行し、コロナ対策の財政資金を賄うことなどが検討されている。

だが、債務共有化につながりかねない財政面での一体的な取り組みには、財政規律を重視するドイツなど北部の欧州諸国が相変わらず難色を示している。目に見えない脅威(ウイルス)との闘いに備え、欧州は財政政策と金融政策の総動員で臨むことが求められる。今こそEUの結束が問われる。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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