「日本が悪い」と口癖のように言う人々の共通点 いったい何に期待をしているのか?
楠木:例えば建築にしても同じです。優れた建築家は今ここでどうやって表現していくかということに集中していますよね。いい意味で、未来に期待していないんですね。
秦:でも、われわれの受ける教育というのは、評価や未来に期待するように教えられるじゃないですか。建さんのような方が学校の先生をやったらいいと思うんですが。
楠木:小学校のようなところですと、僕のような人が先生をやると、教育は成り立たないでしょうね。
例えば、人を殺してはいけませんとか、時間に遅れてはいけませんといったような、相当普遍的な価値観は教えられますけど、基本的には好き嫌いで考えています。だから、「好きにやったらいいんじゃないの」ってなっちゃうんで、教育は成り立たないでしょう。
秦:なるほど。
楠木:そもそも、人を強制しようとか、説得しようとか、ましてや影響を与えようなんて、これっぽっちも思ってない。
僕の本を読んで、この考え方は嫌いだという人もいるでしょうけど、そうなんですか、嫌いなんですか、とくらいしか思わない。「巨人と阪神どっちが好きですか?」という問いなら、好き嫌いという観点はわかりやすいですが、自分の考え、価値観について、「嫌いだ!」と言われると、急に過剰に反応してしまう。これはもう、期待しすぎなんですよね。好き嫌いあるんだから、嫌われたとしても自然なことです。
無理をせず、期待をせず、自然に生きていけばいい
秦:影響を与えるつもりがまったくないと言っていますが、結果的にものすごく大きな影響を与えていると思うんですが(笑)。「セルフィッシュは身近にいる」と、散々語ってきましたが、健さんこそ、セルフィッシュですね。
楠木:良しあしを考えたり、無理したり、期待したり――放っておくと人は変な方向に行っちゃうんです。なので、こういう本があることで道を見失わずにすむ。無理をせず、期待をせず、自然に生きていればいいのです。
英語が母国語の人が「SELFISH」と言うと、どういう意味で受け取るかはわかりませんが、あえてこの言葉を選んだところに、面白さがありますね。
秦:「セルフィッシュ」という言葉、僕は大好きなんです。信じられないくらい豊かな気持ちになる。自分に期待しない。そして、相手にも期待しない。そのかわり、自分が好きだと思うことや、嫌だなと感じることは、我慢せずにしっかりと伝える。伝えるには、伝えるための言葉が必要で、そこに感情の爆発は必要ない。
多様性が叫ばれますが、たぶんこんなふうに、自分を伝えることから始めるのが大切なのではないでしょうか。そうすれば、自ずと理解し合える社会に変わっていくと思います。
(構成:高森勇旗)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら