サウジの無謀な行動で急落した原油相場の行方 値下げと2割の増産でロシアにプレッシャー
歳出面では防衛予算(約670億ドル)が重しとなっているが、大幅削減は難しい。サウジ南部に隣接するイエメンに2015年から武力介入をしており、イランとの緊張関係も続いている。2019年9月には石油生産設備がドローンなどによる攻撃を受け、脆弱な防衛体制をさらしたばかりだ。
原油価格の低迷はサウジ王室の政治力低下にもつながりかねない。2019年12月にサウジ国内で上場した国営石油会社サウジアラムコの株式は原油相場の低迷から公開価格割れを起こしている。「サウジアラムコ株を購入したのはサウジの富豪が多く、王室への風当たりも強くなる可能性がある」(石油業界関係者)。
一方、ロシア経済はサウジほど原油依存型ではないため、比較的余裕がある。財政収支が均衡する価格は1バレル40ドル程度とされ、サウジのそれとは大きな違いがある。
また、世界最大の産油国となったアメリカの動向も、OPECプラスが不調に終わった要因に挙げられる。アメリカのシェールオイル産業は、OPECプラスによる協調減産で原油価格が上昇すると逆に生産量を増やして利益を享受してきた。ロシアにしてみれば、焦って減産に動いて原油価格を上昇させても、アメリカを利するだけだとの警戒感がある。結局、サウジとロシアの思惑が一致せず、協調減産が途切れてしまった。
OPECプラスの信用力が低下
現在は1バレル30ドル台で、原油安が長引けば、生産量を増やしてきたアメリカ産原油にも影響が及ぶ。シェールオイル企業の採算ラインは1バレル当たり50ドル程度とされており、「仮に30ドル台で油価が3カ月から半年ほど続けば、アメリカのシェールオイル企業の倒産も懸念される」(日本総合研究所の藤山光雄主任研究員)。当然、アメリカ経済も少なからぬ打撃を受けることになる。
次回のOPECプラスの総会は6月。財政に余裕がないサウジがいつまで増産を押し通せるかが1つの焦点になる。ロシアも、余裕があるとはいえ、採算悪化にさらされる1バレル30ドル台という低水準が長引くことは望んでいないだろう。
いずれにしても今回のOPECプラスの協議が決裂した影響は小さくない。年初から3割減となった原油価格の下落局面で足並みがそろわなかっただけに、「OPECプラスによる原油価格への下支え効果は衰えたと言わざるをえない」(日本総研の藤山氏)からだ。
今後の原油価格を見通すうえで重要なのは、新型コロナの感染拡大が引き起こす世界景気の後退だ。サウジはロシア憎しで、意図的に相場を崩したが、景気悪化で実需が落ち込み、一段と原油価格が下落するリスクもはらんでいる。有力産油国のにらみ合いに新型コロナ問題が加わり、原油相場の低迷は当面続きそうだ。
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