定年で「肩書を失った人」が感じる大いなる喪失

「出世=運」と思っていてもいざとなれば切実

その結果、ほとんどのゲストたちが司会者のラリー・キングに合わせて声の調子を変えていたのだが、ビル・クリントン元大統領やジョージ・ブッシュ元大統領、オスカーやエミー賞などありとあらゆる賞を受けているバーブラ・ストライサンドなど世界最高峰の肩書を持つゲストのときには、キングが相手に合わせ声の調子や話し方を変えていたのだ。

どんなセレブリティーにも、歯に衣着せぬトークで本音を引き出したキングでさえ肩書に引きずられていたのである。

このような変化は自己愛によるものだと考えられている。

影響力のある人=権力者の声に似せることで、相手に安心できる存在と認識してもらえば「なんかいいことがあるかもしれない」という気持ちが、心の奥深くで無意識に働くのだ。

性格がよくても権力がないと無能とみなされる

私たちの身の回りでも同様の現象は起こる。「権威とか権力に屈しないぞ!」と息巻いていた人が、偉い人の前で態度が変わるなんてことはよくあるし、「権力がある」と見なされている上司は部下たちから話しかけられる頻度が高い。どんなに性格がよくても権力がないと部下から無能と見なされ、部下たちの士気も低下するという身もふたもない現象が多くの心理実験や調査で認められている。

私自身、国際線のCAをやっていた頃は、エコノミークラスとファーストクラスとでワンオクターブくらい声のトーンが違った。もちろん無意識にではあるが、下手なことして怒らせたくない、機嫌をそこねてほしくない気持ちと、「偉い人に好かれたらいいことあるかも」なんてよこしまな感情もあったように思う。

誰もが知る大企業や一流と呼ばれる社会的評価の高い企業に勤めている人ほど、初対面の人に自分が「所属する集団」や「肩書」を明確に伝えたがるのも、彼らが肩書で、他者のまなざしが変わることを経験的に知っているからだ。肩書は相手の心をつかむ最強のツール。国や文化を超えて古くから受け入れられてきた「権力は人を堕落させる」という歴然たる信念も、肩書に惑わされる人の心理に基づいている。

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