多額の賠償を請求する名誉毀損訴訟、批判を封殺する訴訟を抑止する法整備が必要
民事訴訟といえば、訴えた相手に自分の要求を実現させることを目的に起こすものである。しかし近年、提訴すること自体の効果を狙っていると思われる損害賠償請求訴訟が頻発するようになった。
たとえば、2007年10月9日にキヤノンと同社の御手洗冨士夫会長が講談社と執筆者の斎藤貴男氏を相手取って、それぞれ1億円(合計2億円)の損害賠償と謝罪広告掲載を求めて東京地裁に起こした裁判。
訴えの原因になったのは、『週刊現代』07年10月20日号に掲載された「キヤノン御手洗冨士夫“格差社会”経営の正体」という短期連載の最終回「社史から『消えた』創業者とあの『七三一部隊』との関係--“タブー”を追うと見えてきたもの」という記事だ。
この記事で筆者の斎藤氏は、御手洗氏の叔父、故御手洗毅氏(キヤノン初代社長)が発表した、有毒ガスの生物実験に関する論文に、日本軍の七三一部隊関係者への謝辞が掲載されていることを指摘した。
これに対し御手洗氏側は、この記事は、キヤノンと御手洗氏が七三一部隊と何らかの関係があるとの誤解を生じさせるもの、と主張した。
この訴訟では、08年12月25日、一審の東京地裁で講談社に200万円の支払いを求める判決が出たが、東京高裁の二審判決(09年7月15日)では原判決を取り消し、請求を棄却している(原告側が上告中)。