STAPだけではない 科学「成果偽装」の病根 特殊事例ではなく構造的な問題でもある

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内部調査を監査

こうした問題にどう取り組めばいいのか。研究の捏造や改ざん、盗用が相次いだ米国では1992年、連邦政府の公衆衛生庁に研究公正局(ORI)を設置。政府が資金援助している研究で不正がないかを監督する仕組みを設けた。

研究に対する疑惑や告発などを受けて動くが、ORI自体が調査に踏み込むというより、対象の研究機関が内部で行った調査を監査する。いわば「ダブルチェック」の仕組みだ。不正が確認されれば、政府の資金援助を打ち切る権限がある。

米国内の主要な科学研究は何らかの公的な資金援助を受けているため、「ORIの存在感はかなり大きい」と、研究倫理を専門にする大阪大学全学教育推進機構の中村征樹准教授は言う。「当初は『科学界に警察を作るのか』とアカデミズム側からも抵抗があった。しかし、実際は不正を取り締まるのではなく、研究機関側の調査をサポートし、自浄作用を促す役割。また、不正を未然に防ぐため、研究者に対する研究倫理の教育にも力を入れている」。

ORIのような仕組みがない日本では、研究機関の内部調査以上に公的チェックは働かない。倫理教育の徹底もこれからというときに、小保方氏の「未熟さ」が浮き彫りになった。「研究倫理の低さから起こるずさんな研究データの扱いなどが、捏造や改ざんと同様に、大きな損失を与えることが明らかになった」と中村准教授は見る。

今後、理研の調査が手ぬるいまま終わり、世論を納得させられなければ、「日本版ORI」の議論を本格化させる必要がある。そして研究者への倫理教育を含めて自浄作用を働かせる仕組みを作らなければ、日本の科学界は真っ暗な時代に突入してしまうだろう。

(週刊東洋経済2014年3月29日号 核心リポート01)

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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