安倍政権は民主党政権と「同じ過ち」を犯すのか 新型コロナによる影響を甘く見すぎている

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以下では、新型コロナウイルス感染拡大の経済への悪影響が世界各国に広がると慎重に仮定したうえで、やや長い目でみてアメリカと日本に絞って経済動向を展望する。これは、政策当局の総需要安定化政策そして金融システム安定化政策の出来が、大きく左右するだろう。

この観点で、アメリカと日本の株式市場の先行きを考えると、FRBが、金融政策が柔軟に行使する姿勢をいち早く示したアメリカがより有望だろう。仮に、新型コロナウイルス感染が深刻化すれば、トランプ大統領再選が危うくなる。ただ、FRBは1%(100ベーシスポイント)以上の利下げを行う余地があるし、トランプ大統領再選とならなくても、経済安定化政策として拡張的な財政政策が選択されるシナリオも想定できる。政治主導で減税政策を中心に拡張的な財政政策を行い経済の安定成長を実現させたことは、2017年以降のトランプ政権の成功だと筆者は評価している。

日本は緊急に大規模な財政政策発動が必要

一方、未だにデフレ脱却の途上にあり、最も強力な金融緩和政策を続けてきた日本は、追加的な金融政策を発動するオプションがアメリカほどは多くない。そして2%インフレ実現に程遠い状況で、2014年から緊縮的な財政政策が続いてきたことが示すように、日本では、財政金融政策が一体となった総需要安定化政策が十分機能しないという大きな問題を抱えている。

そして、2019年10月以降の、消費増税、新型コロナウイルスショックのダブルパンチとなる急激な経済の落ち込みに対して、安倍政権がこれまで発表している政策は、雇用保険制度を使った所得補償、政府系金融機関による緊急融資制度、などである。総需要の大きな縮小への対応としては、到底十分な対応とは思われない。

なお、新型コロナウイルス感染へ対応する経済対策として、シンガポールではGDP約2%相当、香港で同様に約3%相当の規模で、2020年の財政赤字を拡大させる対応策を発表している。両国は、政府による家計への直接支給あるいは給与支払いの肩代わりなどを含めた、大規模な対策となっている。日本でも同様の政策発動が必要な経済情勢だと、筆者は認識しているが現在そうした政策発動は行われていない。

現在の日本の政策対応は、2011年の東日本大震災の危機時に、増税導入とセットとなり、復興対策の発動に時間がかかった経緯に似ている、と筆者にはみえる。金融政策の発動余地が決して大きくない日本において、お手本とも言えるシンガポールや香港と同様の対応が行われなければ、経済の大幅な落ち込みは避けられないだろう。2019年から筆者がずっと述べてきたが、日本株が、アメリカ株のパフォーマンスに劣る状況がさらに長引く可能性が高まっていると考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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