2030年以降、どの国も「負け組」になりえる理由 気候変動が最悪シナリオで進めば混迷は必至だ

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報告書は、事態が本当に酷くなるのは2030年以降になるだろうとし、「負け組」の国々──例えば、東南アジアの国々──は必死に温暖化防止に取り組もうとするだろうが、「勝ち組」の北欧の国々にはそうしたインセンティブが働かないのではないかと見ている。

しかし、気候変動がこのまま悪化すれば、どの国も「負け組」となる。アメリカのダン・コーツ国家情報長官(当時)は上院インテリジェンス特別委員会での証言で、「気候変動は今後、世界のあらゆるところで資源争奪、経済破綻、社会混乱をもたらすだろう」と警告している。2017年、アメリカでは自然災害の経済コストが3000億ドルを超えた。これはGNPの1.5%に達する。(Moody’s Analytics)

どんなに「壁」を高くしても間に合わない

気候変動や異常気候のせいで、すでに南から北へと大量の難民が押し寄せつつある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査によると、2008年からの10年間に、毎年2200万人がこうした要因で難民化した。現在、世界には6800万人の難民がいる。2011年のシリアの内戦勃発の前、同国を深刻な旱魃(かんばつ)が襲った。アル・カイダは荒廃する農村地帯でテロ要員のリクルートをしてきた。

『地経学とは何か』(文春新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

米欧ともに、政治家たちは、「国境の南」からの難民を国境で食い止める「壁」の建設を唱えているが、気候変動が悪化すれば、どんなに「壁」を高くしても間に合わない。(Lauren Markham)

しかし、気候変動の地経学は、そうしたパワーの変動の巨大なインパクトにとどまらず、国々が脱炭素イニシアティブをどこまで進め、国際的責任を果たすか、そして、イノベーションで人類社会に寄与するかという“よき地球市民国家”のソフトパワーをめぐるゲームでもある。そのソフトパワーは、世界の若年層の支持と信任を伴うモラル・パワーに近い性質を帯びるかもしれない。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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