新幹線の札幌延伸で「長万部」起死回生できるか 開業11年後、「便利な田舎」の将来に不透明感

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幕末の1858(安政5)年、長万部に約100戸の農民が入植し、まちの基礎ができた。1903(明治36)年には現在の函館本線・長万部駅が置かれ、鉄道のまちとして第一歩を踏み出す。1923(大正12)年に現在の室蘭本線の一部が開通し、長万部駅は「山線」と呼ばれる函館本線と、「海線」と呼ばれる室蘭本線の分岐点となった。

「はしっこ同盟」のマーク=2019年5月(筆者撮影)

長万部町はホタテなどの海産物や「かにめし」で知られる。黒松内町は「ブナ北限のまち」を掲げ、アウトドア・アクティビティやハム、チーズが売り物だ。豊浦町はイチゴやホタテ、豚肉が特産で、「日本一の秘境駅」と呼ばれる小幌駅(室蘭本線)がある。このほか、長万部町には東京理科大長万部キャンバスが建ち、基礎工学部の1年生(定員360人)が学んでいる。道南では、函館市以外で唯一の高等教育機関だ。

1998年、北海道新幹線の新函館(仮称・当時)―札幌間のルートが公表され、長万部駅などの設置も決まった。しかし、工事実施計画の認可と着工は2012年までずれ込んだ。その後、完成予定は当初の2035年度から2030年度末、つまり2031年春へ前倒しされたものの、建設決定から着工まで14年、完成まで33年を要する。北海道新幹線の整備計画が策定された1973年を起点に数えれば、札幌開業は58年目に当たる。

長万部だけの新幹線駅ではない

長い道のりの中で、町は2006年に駅周辺整備構想を、2016年に「新幹線を核としたまちづくり実行計画」を策定し、2017年には「新幹線駅周辺整備計画」をまとめた。さらに、産業・経済団体の代表や高校生などが構成する「長万部まちづくり推進会議」が2018年3月、「長万部まちづくりアクションプラン」をつくり、地域連携に主眼を置く三十数項目の施策を提言した。

町内の団体が作った駅の模型。役場に展示してある=2019年5月(筆者撮影)
高架化決定を喜ぶ長万部駅前の看板=2019年10月(筆者撮影)

長万部駅は新幹線と在来線の乗り換えのほか、新幹線の速達タイプと各駅停車タイプの乗り換えを想定している。このため、新函館北斗より北の新幹線駅で唯一、ホーム2面に線路が4線と一回り大きな構造となる。

当初は地平駅になる構想だったが、函館本線が既に町を東西に二分していることから、地元は新幹線駅の高架化を要望した。これに応え、鉄道・運輸機構は2017年6月、駅の前後2.8kmの区間を高架化すると公表した。駅前や役場前には高架化を求めたり、高架化決定を歓迎する看板が立ち、地元の思いの強さをうかがわせる。

アクションプランは、現時点で駅勢圏と考えられる日本海側の今金町、せたな町、北側の島牧村、寿都町、蘭越町、そして黒松内町、豊浦町の意見も参考に作成したといい、作業の過程で「新幹線駅は長万部だけのものではない」という感覚が浸透していったようだ。

この間、交流が深かった3町の町長の間で「はしっこ同盟」の構想が生まれ、2年ほどかけて調印にこぎ着けたという。

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