伊藤雅俊・味の素社長、現地食習慣に入り込む 「浸透に10年はかかります」
──食品による健康貢献をどのように進めていくのですか。
たとえば先進国では過剰栄養、発展途上国は不足栄養という問題があって、それぞれの分野で貢献できることがないか考えています。先進国の場合は砂糖や塩分の過剰摂取で病的肥満などの人が増えている。それを食べ物で解決していくためには、たとえば砂糖を減らして人工甘味料を使えばカロリーを抑制できる。塩分調整でも、塩分半分の「やさしお」という商品を出しています。
栄養不足の解決では、おいしくないものでも、おいしく食べることが大切になるわけですが、そこでは商品の「味の素」をその国の経済力に合った形で売っていきます。日本でいうと、1袋10円というような価格で提供していきます。
──国内市場は人口減で縮小していく見込みですが、今後、国内事業を伸ばしていく余地は。
日本の市場規模が小さくなっていくのは間違いありません。ただ、量的な需要は何十年も前から増えてなくて、何が変わっているかといえば肉の消費量が増えているなど、食の内容が変わってきています。
今後も内容は変わり続けていくはずで、ここでもより健康な食べ物が求められるようになるでしょう。病気になってから薬で治すのではなく、おいしく食べて健康になろうという考え方が増えてくる。「おいしくする」という技術では、当社が最も進んでいると自負しているので、この分野を強化していきたい。カロリーを55%控えたマヨネーズ「コクうま」はまさに典型例です。
今後は消費行動の変化に伴い、新たなカテゴリーが生まれると思いますが、そこへ商品を投入し、消費を喚起していく。コモディティ化しかねない商品をスペシャリティ化していくことが成長のカギとなります。
──ただ、消費者の低価格志向は進む一方です。食品分野でもプライベートブランド(PB)が台頭する中で、メーカーの存在意義とは。
この環境下では、安いものを求める志向が強いのは仕方がない。しかし、消費者にとってもPB商品だけではつまらないはずです。食べ物に限らず、多くの分野で一定以上のバラエティがないと消費者は満足できない。特に日本人はその傾向が強く、メーカーブランドが必要な分野はたくさんある。一方で、メーカーもおいしさを追求する以外に、たとえば製造過程上での環境配慮や、安心・安全対策などをきちんと考えないといけない。そこはおカネがかかりますが、その分、付加価値をつけられると思います。
──一方で、各食品各社とも海外事業の拡大に躍起です。味の素は海外事業の歴史も長く、売上高比率も約3割に達していますが、今後はどうやって伸ばしていきますか。
強みを持つASEANと南米では、さらに商品のラインを深めていきたい。また、こうした地域を軸に近隣諸国に事業を広げていこうと考えています。そこで重要になってくるのが現地の力を利用すること。日本人が行って技術を伝授するのも大事ですが、現地の人にきちんとしたポジションを任せて、現地の人たち中心に仕事をしてもらうことが、海外事業を拡大するカギとなります。
最近ではタイから隣のカンボジアに会社を新設した。来年の9月には工場もできる予定ですが、そこにはタイの人が赴いてカンボジアの人と一緒に仕事をする計画です。マレーシアではイスラム教の戒律に沿った食品の証明「ハラール証明」を取得して販売していますので、そこからアラブ首長国連邦などイスラム諸国にも商品を供給しています。ほかに、ブラジル経由で「味の素」をナイジェリアなどにも輸出していますが、今後はアフリカの他の地域へも進出していきたい。
われわれの競争相手はグローバル企業。彼らはとっくに、アフリカや中東に進出していますよ。
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