2020年報告書は、成長政策をとれば、公債等残高の対GDPを2030年で220%未満に切り下げることが可能としています(出所:「2020年報告書」のp.20にある図 Japan:Gross Public Debt Under Reform Scenarios)。ただし、その根拠は詳しく説明していません。
この根拠は、2018年論文に示されています。
ここでは、さまざまな政策を行った場合に、成長率がどのように改善するかのシミュレーション分析を行っています。
まず、包括的な構造改革によって、GDPを長期的には15%ほど上昇させることが可能としています。上で見たように、GDPの下振れは25%なのですから、これを60%(=15/25)ほどオフセットできることになります。したがって、成長率は0.5%から0.575%(=0.5×1.15)になります。
この結果、公債等残高の対GDP比を、250%程度から220%程度にまで、30ポイントほど引き下げられるとしているのです。
上で見た財政再建策による効果が最大6%ポイント程度であるのと比べれば、これは非常に大きな効果です。
成長率を高める効果
このように大きな効果が得られる理由が説明されているわけではないのですが、次のようなことであろうと想像されます。
1.消費税の増税に加え、経済成長率が高まることによって、その他の税目の税収が増えます。
仮にGDPが15%程度上昇すると、税収の弾性値が1.3程度であるとすれば、税収は20%程度増加します(文末の注)。現在の一般会計の税収等が約70兆円なので、これは14兆円程度となり、先に見た消費税率引き上げによる増収と同額程度になります。つまり、消費税率を20%まで引上げたのと同じことになります。
2.しかも、消費税率引き上げは毎年一定額の増収をもたらすだけであるのに対して、成長率上昇による税収増は、額で見て、時間が経つにつれて増加していきます。
3.成長率引き上げが早く実現できれば、消費税の増税よりも早い時点から増収があります。
4. 対GDP比率を計算する場合の分母であるGDPが大きくなります。
上で見た消費税増税などに比べると、成長率の引き上げがいかに重要かがわかります。
構造政策の中で、とくに労働市場の改革が必要だとし、非正規労働者の技術訓練など、労働市場の構造改革を求めています。
また、規制の改革も重要としています。
そして、生産性の改善が遅れているサービス産業を中心に、人工知能(AI)などによる省力化投資が必要だとしています。なお、「日本がこの先もずっと低成長しか望めない理由」(2020年2月2日配信)で示したように、IMFは、2020年の実質成長率は0.7%であるとしています。
これから、(税収の増加率)=(GDPの伸び率)×(税収の弾性値)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら