90年の人生で、今の日本がいちばんひどい 湯浅誠×瀬戸内寂聴 リベラル対談(前編)

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 自分のことしか考えないのは、教育が悪いから

瀬戸内:そう。自分の国のことしか考えていない。どこの国もそうです。世界の平和なんてことは考えない。自分の国さえよければいい。政治家は自分の属している政党や地域さえよければいい。世界と自分というふうなことは誰も考えていません。

自分のことしか考えないのは、教育が悪いんですね。小さい子どもにちゃんと教えないといけない。そういう考え方は幸せではなくて、隣りも向かいも裏の人もみんなが幸せでなければならないと。子どもは無邪気だから教えたら信じます。小さい頃からいい先生がひとりでもいて一生懸命教えれば、その子はそれをずっと覚えています。

湯浅:私も小学5、6年生のときに、学校の先生が教科書を使わない人だったのですが、当時、教わったことは、後でこういうことなのかとわかりました。10年以上経ってからでしたね。

瀬戸内:だから教育は大切。その教育もまた、政府が差し出がましいことをしようとしているでしょう。教育は教育の世界で独立させておかなきゃダメですよ。

湯浅:日本人は多様性の扱い方が慣れていないですよね。慣れていないから、きつく縛るか、全部放任するか、どっちかしかない。バラバラになると急いで締めて、締めすぎるとひどいじゃないかといってまた緩めて。これを繰り返している気がします。

多様性を多様性のまま尊重しながら、そこからいかに全体の力を引き出すか。一人ひとりの力を引き出して全体を高めるか、そういうノウハウとして蓄積されていない。

瀬戸内:いじめの問題にしたって、いじめがあったときに先生は知らん顔するでしょう。自分のクラスにいじめがあったら自分の評価が下がるから、子どもが訴えてもそれを取り上げない。身を挺しても子どもを守ってあげるようでなければ、教育者じゃないですよ。

湯浅:先生も追いつめられているのかもしれませんね。

瀬戸内:それこそ生活に追われて、自分の家庭を守るのに精いっぱいでは、生徒のことまで一生懸命になれません。先生はやっぱり給料をたくさんあげないとダメです。

湯浅:教師だけでなく、政治家や裁判官もそうかもしれませんが、独立して自分の意見を言うためには、それなりに生活基盤がしっかりしていないと難しい。「頑張れ」という世間の要求は高まっていますが、生活基盤はだんだん弱まっています。

瀬戸内:「頑張れ」「頑張れ」とよく言うけど、私は「頑張れ」という言葉が嫌い。被災者の方々を見ていると、「頑張れ」と言ったって頑張りようがないですよ。

湯浅:やっぱり頑張れる条件を作ることが大事だと私は思います。

瀬戸内:でも日本人全体が自分さえよければいい、という考え方になっていますから、なかなか難しいですね。

(司会:伊藤崇浩、構成:上田真緒、撮影:尾形文繁)

「若者が得たセックスの自由は大事にしていい」に続く

湯浅 誠 社会活動家、法政大学教授

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ゆあさ まこと / Makoto Yuasa

1969年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。2009年から足掛け3年間、内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、朝日新聞紙面審議委員、日本弁護士連合会市民会議委員、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」レギュラーコメンテーター。2014年度から法政大学教授。講演内容は貧困問題にとどまらず、地域活性化や男女共同参画、人権問題などにわたる。著書に、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞した『反貧困』のほか、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』など多数。

 

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