サッカーファンの執念「特別ロマンスカー」快走 貸し切りの「ゼルビア号」はこうして走った

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小田急は今年2月、スポーツを通じた沿線活性化を目指すプロジェクト「OSEC(オーセック)100」をスタートした。

ゼルビア号の乗務員とポポヴィッチ監督。乗務員をはじめ、小田急側のスタッフは同社のサッカーチームのメンバーだった(記者撮影)

OSECは「ODAKYU SPORTS ENTERTAINMENT CONTENTS(小田急スポーツエンターテインメントコンテンツ)」の頭文字。小田急線開業100周年の2027年までに、スポーツをテーマとしたイベントや事業など100のコンテンツを生み出すことを目標に掲げており、ゼルビア号の運行はこの第1弾との位置づけだ。

狙いは「スポーツの『楽しさ』によって、人が移動するための目的をつくる」ことだと、OSEC100の担当者である経営戦略部スポーツ共創戦略チームの鈴木暁さんは話す。

小田急はMaaS(Mobility as a Service、サービスとしての移動)など次世代の交通をにらんだ取り組みにも力を入れるが、人の移動を生み出すためには目的が必要だ。鈴木さんは「スポーツという移動の目的をつくることで、沿線の価値を最大化していきたい」と語る。

鉄道ならではのスポーツイベント

かつて複数の私鉄がプロ野球球団を保有していたように、沿線への誘客策としてスポーツと鉄道の親和性は昔から高い。人口減少や少子化で将来的な沿線人口の縮小が確実な中、鉄道各社は「選ばれる沿線」となるための戦略に知恵を絞る。スポーツ関連イベントは注目度や集客力の高いコンテンツだ。

ゼルビア号の行先表示(記者撮影)

小田急は、球団を抱える西武や東京スタジアム(味の素スタジアム)へのアクセス路線である京王などほかの私鉄各社と比べ、スポーツのイメージは決して強くない。だが、「小田急沿線はスポーツの強い学校が多く、沿線環境も江ノ島ならマリンスポーツ、箱根ならサイクリングや駅伝などさまざまなスポーツに適している」と鈴木さんは強調する。

とくに注目しているのはウォーキングやランニングなど、実際に一般人が取り組める「するスポーツ」だ。鈴木さんは「スポンサーや協賛という従来の形を超えて、今回の『アルクラブ』アプリのようにチームや企業、自治体などと一緒に取り組む『共創型』のスポーツコンテンツを作っていくことがテーマ」という。

最寄り駅から遠いスタジアムという「弱点」を活かし、Jリーグの観戦とウォーキングの組み合わせて実現した「特急ロマンスカー・ゼルビア号」。スポーツによる新たな沿線の魅力づくりに向けて、今回のように話題性ある企画を今後も展開していくことができるかどうかがポイントだ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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