ウクライナ危機拡大、最悪事態回避へ神経戦 日欧ロの深い相互依存、紛争拡大の抑止力になるか

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逆に、欧州からロシアへの最大の輸出品が自動車。ドイツの12年の対ロ輸出総額は約5兆円に上り、うち2割近くが部品を含む自動車関連だ。欧州最強のドイツ経済といえども、巨大市場の喪失は大きな痛手となる。

ウクライナは数カ月に及ぶ騒乱で景況悪化が著しい。JPモルガンによる直近予測では、今年の実質GDP成長率はマイナス3.2%へ後退。通貨グリヴナの暴落でインフレ率は10%強へ急上昇する。財政赤字、経常赤字が続き、政府・民間の対外債務(13年末は約14兆円)のGDP比率は99%へ拡大する見込みだ。

短期国債の利回りは一時30%を突破。政府は「デフォルト(債務不履行)直前」(トゥルティノフ大統領代行)とされる。当面の返済ピークの6月に向け、IMFなどの資金援助が不可欠の状態だ。

ロシアも今年はほぼゼロ成長へ沈む見通し。ルーブル下落に伴う中央銀行の介入で外貨準備の減少は避けられず、インフレ率も高水準が続く。

もし両国でデフォルトや不良債権化が相次げば、両国に投融資した金融機関の損失が膨らむ。要注意なのは、両国への融資比率が高いハンガリーやオーストリアの銀行だ。これらの銀行が大打撃を負えば、他の西欧の銀行へ思わぬ連鎖的影響が及びかねない。

日本への影響は?

近年は日ロの経済関係も深まっている。エネルギー分野ではLNGのうち約10%、原油のうち約7%をロシアから輸入。日本からは自動車や建機など最終製品の輸出が多く、現地生産も増えている。「今後は農業や都市インフラ、医療分野での関係強化も見込まれる」(北出氏)。

安倍晋三首相は日ロ関係を「最もポテンシャル(潜在力)が高い2国間関係」と高く評価し、プーチン大統領と1年間に5回も会談するなど急接近している。対ロ制裁の行方次第では、日本はさらなるエネルギー危機に直面し、政治・経済両面で構築されつつあった日ロ関係が再び崩壊することになる。

「シェール革命でガスも自給できるオバマ政権は経済的ダメージが少ないので強気。一方、日欧は対ロ関係が深く、微妙な対応にならざるをえない。そのためエネルギー情勢の根本を変えることはないだろう」と本村氏は読む。

恒久的な解決に向け、ウクライナのEU加盟を進める一方、北大西洋条約機構(NATO)には加盟させない「フィンランド化」を目指す案などが俎上に載る。難しい神経戦が続くことになる。

(週刊東洋経済2014年3月22日号〈3月17日発売〉 核心リポート04のうち記事部分を転載)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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