それでも若き金融エリートが「香港」に残る理由 デモと新型肺炎「全く大きな問題ではない」

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カイル:独身だからいいものの、家族、とくに子どもがいると今の香港が住みやすいとは言えません。民主化デモ鎮圧で発射された催涙弾で空気は悪いし、時に学校も休校になってしまう。

ヘッジファンドのトレーダーは極端な話、インターネット回線とモニターがあればどこでも仕事ができます。彼らの不満を放置しておくと、シンガポールの同業他社に転職されてしまわないとも限りません。結婚して子どもを持ったときに、私も考えを変えるかもしれません。

家族持ちはシンガポール、独身なら香港、という声は業界ではよく聞かれるという。

エリカ:シンガポールは確かにすべてが安定していますが、国土が狭いし、若いうちは退屈だと思います。

ケニー:シンガポールに住むくらいなら、私は日本で働きたいですね。確かに税率は高いかもしれませんが、日本特有の文化が大好きです。それに、先進国の中では永住権が取りやすい。高度専門職1号ならば最短1年で永住権が取れます。シンガポールで永住権を取ろうとすると、はるかに難しい。私は国籍を1つしか持っていないので、香港外に永住権を持てる、ということはとても魅力的なんです。

日本人の若者に残されるのは2つの道?

3人の話を聞いていると、働く場所も、企業も複数の選択肢から比較検討し、柔軟に選び取っていることがわかる。これはキャリアだけに限らない話ではあるが、たった1つしか選択肢がないよりも、複数の選択肢から比較検討したほうが、自分に最適な道を選び取れるはずだ。

日本人で、彼らと同じような選択肢の数を持っている若者はまだ少ないだろう。どのように行動すれば、選択肢を増やすことができるだろうか。3人の中で社会人経験の長いカイルとケニーは以下のように答えてくれた。

ケニー:日本の若い人は、もっと多様性を知るべきです。そのためにはやはり、留学は必要不可欠。以前、京都を訪れて、ある国立大学の学生と食事をする機会があったのですが「お箸を上手に使えてすごいですね!」と言うんですよ。箸は中国が発祥ですから、自分は当然使えます……。たまたまかもしれませんが、日本を代表するような大学の学生さんでこれ?と正直驚いてしまいました。

カイル:2つの道があると思います。1つは、海外に出ること。これはよりGrowth(成長)を求める人向けです。その場合、英語力、つまり留学は必須。それも大学の学部時代から海外大学に通うのがいいでしょう。修士やMBAだけでは、純粋な海外マーケットでほかの候補者と競るのは厳しいと思いますよ。

2つ目は、日本国内の市場を狙うこと。日本は現在、ドルベースのGDPは世界第3位です。これ以上多くの成長を望めない代わりに、今の地位を保っていけばいい。日本国内の大企業で長く働きたかったり、官僚や弁護士、医師といった国内の資格職を目指したりするならば、国内の有名大学、つまり東京大学や慶応大学などを目指すのがよいと思います。成長を求めるだけが正解ではありません。

日本では、終身雇用制度が崩壊しつつある反動で、「グローバルで勝負することこそ是」とする向きもある。しかし個人の志向や適性に応じて選び取ってこそ「多様性を認めることになる」という意味であろう。

もっとも、カイルの言うところの「安定」を選択できる前提は、中国やインドを筆頭に他国が成長を続ける中で、日本が現在の地位をキープできていればの話だ。さらに言えば、数十年後に日本という国が存在していれば、の話である。

富谷 瑠美 香港在住コラムニスト

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とみや るみ / Rumi Tomiya

2006年早稲田大学法学部卒。アクセンチュアで全国紙のITコンサルティングを担当したのち、日本経済新聞電子版記者、リクルートグループの編集者を経て、子連れで香港に移住。Twitterはこちら。

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