「アルツハイマー病検査」の進化で浮上する問題 自分が「将来記憶を失う」ことを知りたいか
オレゴン州ポートランド在住の神経科医ダニエル・ギブス(68)は、自分が物忘れをするようになったと気づいたとき、アルツハイマー病かどうかを知りたいと思った。彼はアルツハイマー病の影響を受けた自分の患者を頻繁に目にしていた。
そこでギブスは、アミロイドベータの蓄積を調べる脳スキャンと認知テストを受けた。自分のように軽度の記憶障害がある場合は、この2つを受けることで診断が確実になると知っていた。
結果、アルツハイマー病の初期段階であることが判明した。
検査で「陽性」が出た人たちの反応
ギブスは現在、自分の将来について懸念している。アルツハイマー病は「見苦しい死に方だ」と彼は言う。ギブスは家族に、自分が肺炎などにかかった場合は治療をしないよう伝えている。
ギブスが行ったような検査は料金が高く、診断のための脳スキャンは通常は保険が適用されない。またアルツハイマー病を懸念していても、記憶障害が表れていなければ受けることができない。ただ、一部の医療機関では軽度の記憶障害がある人にも実施している。
ミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニックの神経科医ロナルド・ピーターセンは、一般的に記憶障害がなくても脳内にアミロイド斑がある人はアルツハイマー病になる可能性が高いと指摘する。しかし、すべての人がなるわけではなく、罹患(りかん)しても症状が表れるまでに何年もかかる場合もある。
ラビノビッチは、記憶の問題に苦しみ、何かがおかしいと感じながらも、医師から診断を下されずにいる人たちを見てきた。
「医師は往々にして、患者の記憶障害が年齢と関係しているかどうかを断定的に告げることができない」とラビノビッチは指摘する。「多くの場合、医師は患者に『問題はありません。75歳とか89歳で気が沈んでいるなら、抗うつ剤を試してみては?』などと言う」。
ラビノビッチは診断検査を行う前に、患者とその家族に対し、検査結果が陽性だった場合はどう思うか、陰性だったらどうかと尋ねる。
検査で陽性と診断された人のほとんどは、最初はショックを受けるが、検査を受けたことを後悔していないと話すという。「診断が下されるまでの長い旅が終わる」とラビノビッチは言う。「不確実な状態に終止符が打たれるのだ」。