ソフトバンクのシリコンバレー拠点は不夜城 本格始動はTモバイルとの合併後か

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夜も仕事が続くソフトバンクのシリコンバレーオフィス

 

土管勝負のリスク

喫緊の課題は、ワシントン州に本社を置くTモバイルを買収できるかどうか。ここを傘下に収めてからが本格始動で、今はまだ助走期間といってもいいのかもしれない。

複数のコンサルタントの話を総合すると、「契約数の観点から独禁法に抵触する可能性は極めて低い。大手2社の反対があったとしても、最終的には買収できる」という観測が多い。ストラテジック・ニューズ・サービスのマーク・アンダーソンCEOは、「ソフトバンクが携帯市場に関与し一定のシェアを取ることで、米国のブロードバンドがいっそうスマートなものになる可能性が高い。スプリントとTモバイルの合併は通信インフラの進歩につながる」と歓迎する。

ただ、合併が実現したとしても、難しい戦いだ。コンサルティング会社フュージョン・リアクターの徳田浩司代表は、「通信インフラはいわゆる土管化が進み、どこを使っても同じ。設備そのものの充実度が差別化要素になり、契約数の多いほうが投資額も大きくできる」と指摘する。圧倒的な契約数を持つベライゾン、AT&Tの2強に対抗するのは、教科書的には、無謀な戦いなのだ。

負け戦になることを防ぐためにも、「何よりTモバイルとの合併が重要だ。スプリントだけの状態が長引くと、ソフトバンクの企業価値を引き下げるだろう。これは極めて危険だ」(シリコンバレー・イノベーションコンサルタントのサジーブ・チャヒル氏)。もっとも、Tモバイルにこだわらなくても、何らかの戦略的買収を行うことで、モバイル分野で大きなプレーヤーに化ける可能性はある。情勢に応じて大胆に動き方を変えるのがソフトバンクの特徴。孫社長がウッドサイドの邸宅に腰を落ち着ける頃には、新たな戦略が編み出されているのかもしれない。

週刊東洋経済2014年3月15日号〈3月10日発売〉核心リポート01-2)

Ayako Jacobsson ジャーナリスト

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アヤコ・ジェイコブソン / Ayako Jacobsson

山口県徳山市生まれ、広島市で育つ。東京都立大学(現首都大学東京)法学部卒業、英ケンブリッジ大学、コロラド大学ボルダー校で学ぶ。在学中、AP通信東京支局で編集アシスタント、卒業後はビジネステレビのディレクターとして「ウォール・ストリート・ジャーナルを読む」「製造物責任法」等を担当。その後、読売新聞英字新聞記者として、通信、テレビ、映画、ホテルなどの業界を取材した。ペルーのフジモリ元大統領へのインタビューも行った。1999年頃からシリコンバレーに拠点を置き、取材・執筆活動を行っている。

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