そうして厚労省の課す“武漢しばり”から漏れた、実際ほとんどの患者さんたちは、とりあえず風邪と診断されて帰宅していく。万が一、彼らが感染者であれば、感染を広げ続けることになる。無症状感染者が確認された以上、もはや国内のどこで感染するかはわからない。そのうえ検査不能であれば、感染が確認できないままの潜在患者は増え続ける一方だ。
冒頭の「特効薬がないのだから、調べても意味がないのでは?」との疑問は、もっともだ。しかし、60歳以上の高齢者や、糖尿病など基礎疾患を有する人では、重症化するリスクは高くなる。少しでも不安があれば検査でき、当面は対症療法であれ治療できるようにしておくことには意味があるだろう。
症状の軽い人も、武漢しばりなく検査して陽性とわかれば、いち早く治療開始するのはもちろん、他者への感染予防も徹底できる。新型コロナウイルスの早期制圧のためには、できうる限りの手を尽くすしかない。
抗HIV薬で進む臨床試験、エボラ出血熱治験薬も
もう1つ、簡易検査キットの開発を急ぐべき理由がある。治療薬の開発が思いのほか早まるのでは、との期待が高まっているのだ。特効薬ができたとしても簡易検査が同時に普及していなければ、投与の判断がつかず、実用性は大きく損なわれる(耐性ウイルスの出現を阻止するためにも、むやみな予防投与は控えるべきだ)。
世界各国で今、主に既存薬から、新型コロナウイルス感染症の治療薬として有用なものを見つける作業が急ピッチで進められている。
1月24日の医学誌「Lancet」では、抗HIV薬である「ロピナビル・リトナビル」を使った臨床試験が中国内で行われていることが明らかにされた。中国当局も間もなくそれを認めている。
また、「Bloomberg」は、エボラ出血熱向けの治験薬「レムデシビル」の利用を研究中で、アメリカや中国の研究者および臨床医と協力していると報じている。
とくにHIV治療薬については、2月2日にもタイ保健省が、抗インフルエンザ薬「オセルタミビル」、いわゆる「タミフル」を併用して投与したところ、病状が回復しウイルス陰性となったと発表。タミフルはMERS(中東呼吸器症候群)でも効果があったと報告されていることから、併用に至ったという。
新型コロナウイルスについては、中国が国の威信をかけて分離と配列の決定に迅速に取り組み、1月初めにはゲノム配列の概要も発表されている。さらに日本も、国立感染症研究所が1月末に、ほぼ全長のウイルスゲノムの配列を確定。しかもその配列は、最初に中国が発表したウイルスの遺伝子配列と99.9%同じだったという。
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