乗客減でも収入維持、「異業種」鉄道会社の戦略 地域の活性化に一役買う「京都丹後鉄道」

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観光客向けの取り組みを進める一方で、地元利用者向けの施策としては運賃面で利用しやすくなるよう改定を行った。2019年10月の消費税率8%から10%への引き上げの際は、同時期に全国の多くの鉄道会社が運賃を改定したが、京都丹後鉄道は増税分を転嫁する値上げだけでなく、同時に短距離・長距離区間の引き下げを行ったのが特徴である。

長距離区間については、1510~1800円の区間(71km以上)をすべて 1500円に値下げした。割高感を解消することで、鉄道の果たすべき役割である長距離移動に利用しやすくなるとしている。また、短距離区間では初乗りを170円から150円に引き下げ、さらに210円区間(4~6km)を路線バス同様の200円とした。

京丹後市内の路線バスは200円の均一運賃であるが、鉄道の運賃を200円としたのは路線バスと競争しようとするわけではない。公共交通の運行本数が少ない地域において、時間帯によって両者を選んで利用できるようにすることを目的としている。京都丹後鉄道は「沿線地域全体を網羅する公共交通網の構築」を経営ビジョンの1つに掲げており、このような運賃改定はその1つの例といえよう。

地域への波及効果を考えて鉄道存続を

鉄道が赤字であっても、沿線への観光誘客などによる経済効果が高ければ、例えば補助金を投入して鉄道を維持することに対しても合意形成がしやすくなる。鉄道事業の採算性だけを見て鉄道が必要か否かを判断するのではなく、地域に落ちるお金(便益)も加味して存続を判断しなければならない。

丹後地方は、大阪・京都などから比較的近いこともあり、直通の特急列車も多数運転されている。京都丹後鉄道は沿線の過疎化も進んでいるが、風光明媚な車窓が魅力的な路線であり、さらに運営するWILLER TRAINSの親会社が高速バス大手のWILLERであることから発信力も高く、ほかの地方ローカル鉄道より有利な部分はある。

だが、たとえ路線長が短く、著名な観光地がなくても、眠っている観光資源や話題を呼べる方法はきっとある。京都丹後鉄道でいえば、クラウドファンディングを活用したカフェの開店なども話題を呼ぶ方法の一環である。地元の眠っている資源を掘り起こし、単体での採算性だけでなく、地域の経済活性化に必要な存在として鉄道の存続を図る取り組みが増えることを願っている。

堀内 重人 運輸評論家

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ほりうち しげと / Shigeto Horiuchi

1967年生まれ。立命館大学経営学研究科博士前期課程修了。運輸評論家として執筆や講演活動、ラジオ出演などを行う傍ら、NPOなどで交通問題を中心とした活動を行う。著書に『ビジネスのヒントは駅弁に詰まっている』(双葉新書)、『観光列車が旅を変えた: 地域を拓く鉄道チャレンジの軌跡』(交通新聞社新書)、『地域の足を支える コミュニティーバス・デマンド交通』(鹿島出版会)ほか。

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