「シニアの発達障害」が認知症と誤診されるワケ 大人になって発達障害を疑うケースも増加
発達障害とは、幼少期からの発達のアンバランスさによって、脳内の情報処理や制御に偏りが生じ、日常生活に支障をきたしている状態のこと。特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手といった特徴が見られる。得意なことと苦手なことの差は誰にでもあるが、発達障害がある人は、その差が非常に大きく、そのために生活に支障が出やすい。
具体的に説明しよう。発達障害は、行動や認知の特徴によって、主にASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、LD(学習障害)の三つに分類される。それぞれは重複することもあり、人によっては複数の特性を併せ持つ場合もある。こうした特性は見た目ではわからず、周囲はつい「本人の努力が足りない」などと思ってしまいがちだ。以前はその特性からもたらされる失敗や困難を、本人の努力不足や親の育て方のせいとされることがよくあった。
大人の受診も年々増加
日本では2005年に発達障害者支援法が施行されたことで広く知られるようになったが、概念が知られるようになってきたのはごく最近のこと。大人になって発達障害を疑い受診するケースも年々増加している。それはA子さんの母のように、シニア世代であっても例外ではない。
「発達障害のあるシニア世代は、全般的に平均より元気な人が多い。例えば徹夜で編み物をするなど、過集中しがちな傾向がある一方で、興味のないものは全く耳に入らないなどの例も見られます」
と話すのは、認知症に詳しい河野和彦医師(名古屋フォレストクリニック院長)。特筆すべきは、認知症を疑ったら、実は発達障害だったという例が少なからず見られることだ。
「60代以降になると、よもや発達障害とは思わず認知症と診断されるケースが多い。発達障害と認知症には共通点があり、さらに認知症でおなじみの記憶テストを行っただけでは、認知症と発達障害の区別がつきません」(河野医師)
特に区別がつきづらいのが、認知症の一歩手前の状態であるMCI(軽度認知障害)と発達障害。主な認知症はだいたい65歳ぐらいから症状が表れ始めるが、MCIは50歳ぐらいから、軽度の記憶障害などの症状が出始める。MCIか発達障害かの見極めには、幼いころからの日常行動の問診が診断材料となるが、認知症と発達障害はそれぞれ専門医がいるため、これらを同時に診断できる医師は非常に少ないのが現状だ。