アメリカの株価が下落を始めるのはいつなのか 次に新たな市場の波乱要因になるのは何か

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また農産物に限らず、中国が大量の米国製品を購入することになった今回の合意が、他の中国の貿易相手国に影響を及ぼすシナリオにも注意が必要だ。中国が合意の履行のためアメリカからの買い付けを増やせば、当然ながら他の国からの輸入は減ることになる。アメリカは今回の合意でひとまず満足したのかもしれないが、とばっちりを受けて中国向けの輸出が減ってしまう他の国はたまったものではない。米中以外の国や地域で、経済が更に悪化することも十分に考えられよう。

欧州は早速、今回の米中合意が国際貿易機構(WTO)の規約に反しているとの訴えを起こしている。他からもこうした動きが出てくる可能性は十分に高く、アメリカとの関係も悪化することになるだろう。特に現在も続いている欧州とアメリカとの貿易交渉が、より厳しいものとなる可能性には、十分な注意が必要だ。

米中貿易交渉が再度市場の波乱要因となる可能性

こうした動きが加速してくれば、これ以上アメリカからの無理な要求を押し付けられたくない中国が、世界貿易機関(WTO)や他国を巻き込んでアメリカとの交渉を有利に進めようとする作戦を取ることも考えられる。2国間の個別交渉を軸として、貿易問題を進めていけば、こうした問題が浮上してくるのは分かっていたことだが、自国の利益が最優先としているトランプ政権は、もともとそういった問題を意に介していない。場合によってはWTOからの脱退も辞さないとの姿勢を示しており、実際にこうした状況にまで事態が悪化すれば、世界経済が大混乱に陥ることもあり得るのではないか。

対中国にとどまらず、こうした問題を数多く抱えたままで強引に進められてきたアメリカの貿易交渉ではあるが、さまざまなところで実際に影響が出てくるのはむしろこれからだろう。そうしたリスクが待ち構えている中にも関わらず、FRBによる過剰な資金供給によって史上最高値の更新を続けている今の株式市場は、やはり相当に危なっかしい状況にあることは間違いない。

幸いなことに、FRBにはまだ利下げの余地は残っているし、いざとなれば現在の米国債の購入対象を短期債のみから長期債にも拡大、名実共にQE4を開始、株価を下支えすることも可能だろう。

しかしながら、そこまでの大胆な金融緩和策を打ち出すには、やはりそれなりの大義名分が必要だ。経済指標の悪化が顕著になり、景気後退局面に入る恐れがいよいよもって高まってくれば、ジェローム・パウエル議長も躊躇なく決断することができるだろうが、少なくとも株価が上昇を続けている今の状況下では、やはり次の一手は過剰な緩和策の引き締めということになる可能性が高いと見る。山高ければ谷深し、その際には株価の大幅な調整も避けられないと考えておくべきだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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