中国経済を「GDP成長率」で語ることの限界 政府は2020年まで6%維持を目指すが…

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幸福に関する明確な定義はないが、一般的には所得などの客観的指標と、心理的側面を重視する主観的指標の両面から評価することが多い。GNHが提唱されて以来、経済成長と幸福度の関係性などに関する議論が活発になされており、これまでに多くの団体や国際機関が幸福度を評価する指標の開発を試みた。

GDPに反映できないのは幸福度だけではない。アメリカ・マサチューセッツ工科大学のエリック・ブリニョルフソン教授とアンドリュー・マカフィー教授の著作で、2014年に全米ベストセラーとして注目された『ザ・セカンド・マシン・エイジ』は、デジタル技術の日進月歩に伴い、経済の仕組みや雇用、人間の役割などがどう変わっていくかを議論し、GDPの限界に関する議論も展開している。

著者らは「デジタル情報やアプリなどの無償提供、共有経済、人的関係の変化といったものは、人々の幸福や生活満足度に既に多大な影響を及ぼしている」と述べ、これらがGDPに反映されていないことを指摘している。

テクノロジーの進化とデジタル化によって、既存のモノやサービスに新たな価値がもたらされている。また、デジタルエコノミーの発展が加速し、より効率性や利便性の高い社会の実現につながっている。ただ、現在のGDP指標では計測しきれない部分が多いため、デジタルシフトが進む中国経済の全体像と実情を把握するのは一層難しくなってきた。

豊かさだけで「小康社会」は実現できない

もちろん、小康社会の実現の基礎になるのは経済的な豊かさに他ならず、経済成長は依然として重要性が高い。だが、小康社会の概念には、貧困撲滅など経済的な側面以外に、社会の発展や法制度、文化、教育、生活の質など、国民の関心が極めて高い分野も多く含まれている。つまり、小康社会は経済発展だけでは実現できない。中国のGDP成長率が今後も鈍化し続けていく可能性を考えると、教育水準の向上や、より安全・安心な社会の構築など、経済以外の側面を最優先の目標にすべきだろう。

かつて中国統一を遂げた秦の始皇帝が不老不死を求めたさまざまなエピソードが残っているが、現代人はそうした行為は愚かであると見ている。しかし、人類はこれまで飢餓、戦争、疫病の3つの課題を克服してきた。これからは見果てぬ夢である不老不死にチャレンジすると、イスラエル人の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書『Homo Deus: A Brief History of Tomorrow(ホモ・デウス)』の中で説いた。

不老不死の実現は幸福なのか不幸なのか、賛否両論があるが、世界の平均寿命は年々伸びている。ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授らが2016年に書いた『ライフ・シフトー100年時代の人生戦略』が世界中で話題を呼び、日本では「人生100年時代」という表現をよく目にするようになった。中国でも長寿化の進行に伴って、個の学び方・働き方・生き方が変容しつつある。豊かさ以外に、長い人生の幸福をどう定義し、どのように追い求めていくかが問われ始めている。

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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