氷河期40万人「ひきこもり」支援の切実な現場 実社会との「溝」を埋めれば活躍の場はある

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高校3年の春以降、不登校になったAさんは通信制の高校に転学。卒業後はひきこもり支援をするNPO法人で寮生活を送る。寮生活中、探していたのは「自宅でできる仕事」だった。2年後、認定NPO法人・育て上げネットの就労支援プログラム「ジョブトレIT」にたどりつく。2019年4月から4カ月間の講義を受け、動画編集の仕事につなげた。

動画編集に取り組むAさん(記者撮影)

「税金関係の仕事をしている両親からは、雇われない働き方は社会保険料などの負担が重くて大変だと強く諭されました。でも、私にとっては自分のペースで生きることの方が大事だった」(同)

現在請け負っている動画の編集は月に40本請け負ったとしても月収は4万円で、生活していくには少ない。だが、この4万円がベースにあれば、もう1つの仕事を持とうとする際に多少は収入が落ちても心身への負担が小さい仕事を選べるかもしれない。育て上げネットの「就職支援」ならぬ「就労支援」の意義は、そこにある。

就労支援に共鳴する企業も

育て上げネットの就労支援に共鳴するIT企業がある。東京都中央区のディースタンダードだ。育て上げネットからのインターンを受け入れ始めたのは10年ほど前で、現在30人の「卒業生」が従業員として働いている。

仕事の主な内容はパソコンの初期設定であるキッティングだ。手順書に沿って作業を進めていくため、基本は1人で黙々と作業を進めることができる。が、なかには年下に指示をされることを嫌がったり、他人と比較して「自分にはできない」と悲鳴をあげ、インターン2日目から出て来られなくなったりする人もいる。そんな時、取締役の池田千尋さんは自宅まで迎えに行った。場合によっては育て上げネットと連携をとった。

「〇〇さん、今日、会社で叱られてしまい、もしかしたら明日は出社できないかもしれない。こちらには言いにくい本人の悩みもあるだろうから、そちらで話を聞いてやってほしい」。そうした連絡だ。池田さんは「大切にしているのは情報の共有。本人が働き続けられるように周囲が情報を共有し、連携しながらサポートしていく体制を作ってきた」と言う。

課題は新しい環境に慣れる力、そして続ける力だ。「ひきこもりを経験した人は、新しい環境に慣れるのにエネルギーがいる。ただ、最初のハードルさえ乗り越えることができれば、後はまっすぐに成長していける人が多い。自分が苦労してきた分だけ他人にやさしくできるし、孤立してきた分だけ会社への帰属意識や所属意識が強い。だから最初のハードルを越えられるよう支えていくことが大切なんです」(池田さん)。

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