子どもの虐待による「社会的コスト」は甚大だ 児童虐待を「お金」で可視化してみると…
児童虐待の社会的コスト算出はオーストラリアやカナダ、ドイツなど多くの国で実施されていますが、一番質の高い結果を出しているのはアメリカです。1980年代では約2000億円でした。現在の評価は約12兆円です。直接費用は約3兆円、間接費用は約9兆円です。
これら研究には、福祉+経済学+医学などのさまざまな手法が使われています。そしてこの12兆円は、アメリカの2型糖尿病の社会的コストとほぼ同額であり、いわゆるそれと同じぐらい社会に影響を与えるのであるとXiangming Fang氏らは述べています。
つまり、見える化(お金)をすることにより、他分野と比較可能になって児童虐待対策の重要性が明らかになったのです。
さて、わが国に話を戻します。これまで児童虐待のコストについて対象を絞って算出すること(一部の医療費)などは行われていましたが、全容を把握するのは難しいといわれてきました。それはわが国にデータがないからです。
被害を受けた子どもたちがどのような人生を歩むのか、児相が介入したら、介入しない子どもに比べどのように効果があったのか、ほとんどデータがないのです。わが国以外では公共の福祉と個人の情報保護を比較検討しさまざまなデータの提供を行っており、国によっては子どものケースデータまで研究者が入手できますし、さまざまな情報が公開されています。しかしわが国は情報規制が歪んで発達してしまったので、必要なデータは公開されない状況が続いています。
わが国にはデータがない。では算出はできないのでしょうか?
「超過費用モデル」という手法
私は福祉以外の統計学や行動経済学、疫学、環境経済学などの手法を学び、他分野のさまざまな研究者にアドバイスを求めましたが、児童虐待の理解は難しくなかなか研究は進展しませんでした。しかし数学(数論)に注目するところがありました。フェルマーの最終定理の理解をしようとしていたときに、「そのものを証明するのではなく、その影響が現れたもので証明する」ということが浮かびました。
児童虐待のデータがないからできないのではなく、児童虐待の影響が現れたデータを見つけ出し、それをつなぎ合わせてデータを加工して児童虐待の影響だけと取り出せば児童虐待のデータになるということです。
そしてある医療経済学で発達してきた「超過費用モデル」という手法が社会的コストの算出に使えると確信しました。簡単に説明すると、一般の人のみの集団の年間医療費が10万円で、虐待を受けた人のみの集団の年間医療費が50万円だったら、虐待の影響(コスト)は40万円である。
本来はさまざまな変数(要因)を考慮するのでこのように簡単に算出はできないのですが、おおよそこのようになります。ありとあらゆる公開資料を手作業で集めてつなぎ合わせ、この方式を使って、2014年夏、児童虐待の社会的コストを算出することができました。その社会コストは直接費用0.1兆円、間接費用1.5兆円の合計1.6兆円です。
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