子どもの虐待による「社会的コスト」は甚大だ

児童虐待を「お金」で可視化してみると…

そのため評価ができない、可視化できないため、児童虐待防止政策というのは優先順位が明らかに低かったのです。かつては、政策決定者から呼ばれてブリーフィングをしても、「その対策はやって票になるの?」と言われ続けてきました。児童虐待防止対策を行う現場や研究者は、政策のパワーゲームに敗北し、改革が進みませんでした。

児童虐待が社会に定期的に問題提起するのは虐待死が起こったときだけです。今はSNS全盛です。ある虐待死事件後一定期間の社会(SNS)の反応を解析すると次のように分類されます。

① 社会に対する怒り
② 政府・行政(児相など)に対する怒り
③ 加害者(親)に対する怒り

凄惨な虐待死は社会に影響を与えます。しかしそれは感情的なものが多く誤った方向に流れがちであり、充実した対策が取れなかったり誤った政策を推進してしまう可能性があります。そもそも凄惨な事例「のみ」で矢継ぎ早に政策が動いてしまうと、十分なリソース(予算や人員、制度)なしに実行されるので、現場は疲弊し、子どもやその家族によりよいケアができなくなってしまうのがわが国の現状です。

さて、児童虐待の影響は何で測ると望ましいのでしょうか。福祉は感情論に走りやすい分野です。虐待死は痛ましいですがそれを踏み台に社会を操作しようとしたり、自らの利権のために社会をあおるのは望ましくありません。冷静に客観的に測定でき、そして他分野とも容易に比較できる見える化指標、それはお金です。

かつては福祉を、子どもの命をお金で測るとは何事だ!と批判されてきました。しかし今はそれは国際的にも社会的コンセンサスとなっています。

虐待の社会的コストの歴史

児童虐待はその影響を過小評価しているので、政策順位が低いのではないか? 1980年代、世界中のマクロの研究者はその疑問に取り組み始めました。いわば児童虐待の社会的コストの萌芽です。当時、アメリカで算出された年間の児童虐待のコストは約2000億円でした(1ドル=100円)。

時が経ち、計量経済学や疫学など他分野の手法を取り入れ、社会的コストの研究が発展してきました。2000年以降、社会的コストは2つに分かれました。1つは虐待そのもののコスト(直接コスト)です。これは児童虐待が起こると児相の運営や社会的養護(里親や施設など)の費用だけでなく、治療費など直接関わるものです。

もう1つは虐待による影響(間接コスト)です。虐待を受けた子どもは、その影響によって、その後の人生において精神疾患にかかりやすく、自殺・自殺企図の可能性が高くなるだけではなく、適切な学歴が得られないなど多くの影響が考えられます。その結果、生涯収入の減少や生活保護の受給増加、治療などの医療費だけでなく、犯罪など反社会的な行為の確率も上がり、それらに対応するコストも間接コストといえます。

このように児童虐待の社会的コストは直接コストと間接コストに分けることができます。さて、それでは他国ではどうなっているのでしょうか? 

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