ここがヘンだよ!日本企業のイノベーション 科学者集団が考えた、面白い仕事の作り方

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つまり、何をやりたいという強いパッションを持っている人間は、それを可能にするために、必然的におカネを稼ぐことにも力をそそぎます。一見、遠回りなようですが、「儲けたい」から出発するよりも、「やりたいこと」を実現するためにいろいろなことを考えるほうが、結果的に成功率は上がります。

「豚を育てたい」?! 超個人的な欲望をビジネスに

リバネスの事業の中から、「QPMIサイクル」の具体的な事例をひとつご紹介します。

リバネスには、「福幸豚」という独自ブランドの豚を開発して売る養豚事業があります。このプロジェクトを立ち上げた福田という社員には、「自分自身で豚を育てたい」という単純な、しかしとてつもなく大きなパッションがありました。

彼はリバネスのインターン生だった頃から、養豚をやりたいと言っていましたが、当時のリバネスにはその力はありませんでした。だから、彼は一度、別の畜産飼料卸売会社に就職し、直営農場で養豚を学びました。

あるとき、私は養豚場で働く彼に「1から10まで、福田自身の手で育てた豚を食べてみたい。1頭分全部買うから、俺に送ってくれ」と告げました。でも福田は悲しそうに言うのです。「エサも品種も自分自身の手で作ることなんかできない。豚自体も、精肉の段階でほかの会社の豚と混ざってしまうし、ただの国産豚になってしまう」と。

彼は続けて、「そこが課題なのです。自分自身で作った豚を届けられないことが」と言います。私は即答しました。「じゃあ、うちで作ればいいよ。沖縄にいい場所がある。そこでエサ作りから始めよう」、と。そして彼は私を信じ、会社を辞めてリバネスに転職しました。

もう私も引き下がることはできません。彼のパッションを潰すわけにはいかない。

そこで舞台に設定した沖縄のことを調べていると、沖縄の養豚業界にもいくつもの課題があることがわかってきました。実は、沖縄では大量に豚が消費されていますが、そのおよそ半分が輸入豚肉なのです。沖縄料理として有名なラフテーやテビチも、ほとんどが輸入豚肉で作られている。そして、エサの値段がどんどん高騰していたために、現地の農家がどんどん潰れていたのです。

私は、その悲しい現実を聞いて、これは逆にチャンスなのではないかと思いました。現地の課題と、福田の課題を一緒に解決することができると考えたからです。そこで、琉球大学の先生の協力を得て、まだかろうじて生き残っていた地元の養豚農家と提携しました。

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